肝細胞癌(HCC)に対するラジオ波焼灼術(RFA)は低侵襲でありながら高い局所制御機能を持ち、現在多くの施設で導入されている。しかしその一方で腸管に近接した結節を焼灼する際には術後に腸管穿孔や穿通をきたした例も報告されている。当科でも2009年1月から2010年8月までに行ったRFA 131症例、計141回のうち、RFAによるものと考えられる消化管潰瘍を2例経験している( 2/141≒1.42%) 。症例1 50歳、男性、B型肝硬変の患者。肝S2領域の30mm大のTACE後HCC再発に対し、RFAを施行した。術2日後の上部消化管内視鏡で胃体上部前壁にA2 stageの潰瘍性病変を認めた。症例2 81歳、男性、C型肝硬変の患者。S3 15mmのHCCに対しTACE後RFAを施行した。術3日後の上部消化管内視鏡で十二指腸球部前壁にA2 stageの潰瘍性病変を認めた。両症例とも潰瘍からの出血は認めず、保存的治療で改善を認めた。その後、当科では腸管に近接する結節は5%ブドウ糖(500〜1000ml)を用いた人工腹水を用いることとし、特に左葉外側区背側や右葉後区域尾側に位置する結節には人工腹水を持続的に注入しながら焼灼をする方法を積極的にとりいれている。2010年4月から8月まで7例に人工腹水を用いてRFAを行い、そのうち左葉外側区背側2例、右後区域1例の3症例3結節に対しては人工腹水持続注入中の焼灼を行った。いずれの症例も周囲臓器への損傷は認めず、結節も十分なmarginを伴って焼灼できた。また人工腹水の作製に伴う合併症は全例認めていない。HCCに対してRFAを行う際、人工腹水は周囲臓器への損傷の危険性を減少させることができ、とくに腸管に近接している結節を焼灼する際には積極的に取り入れるべきだと考えられた。