日本消化器内視鏡学会甲信越支部

19.Helicobacter Pylori除菌15年後に発症した早期胃癌の一例

丸子中央総合病院 内科、岩手医科大学 消化器・肝臓内科
塚原 光典
丸子中央総合病院 内科
沖山 葉子、金子 靖典、松澤 賢治、丸山 和敏
丸子中央総合病院 外科
佐々木 裕三、尾崎 一典

【はじめに】Helicobacter pylori (HP )感染と胃発癌の関連は強く、HP 除菌療法による胃発癌の予防効果に関するエビデンスが報告されている。しかし、除菌後に発見される胃癌は依然存在し、その成因的特徴についてさまざまな検討がなされている。今回HP除菌15年後に発症した早期胃癌の症例を経験したので報告する。【症例】73歳、男性。【現病歴】高血圧、脳梗塞、前立腺肥大にて通院加療中であった。平成6年胃体中下部前壁〜大弯の胃MALTリンパ腫(表層型)と診断され、HP除菌治療を施行された。除菌は成功し、MALTリンパ腫は完全寛解となった。その後も定期的に内視鏡検査をうけていたところ、平成21年8月病変を指摘された。【上部消化管内視鏡所見】萎縮と腸上皮化生の残る胃粘膜を背景に、胃体下部大弯に径30mm大の軽度発赤調平坦〜平坦陥凹性病変を認めた。生検病理組織にて高分化型腺癌であり、精査にて粘膜内病変と判断したためESDにて一括全周切除を施行した。【切除標本病理所見】病変は0-IIc+IIb, 31×28mm,Well differentiated adenocarcinoma>moderately differentiated adenocarcinoma,M,ly0,v0,LM(-),VM(-)であった。背景粘膜には軽度の単核球浸潤と腸上皮化生を認めた。HPは陰性であった。【考察】現在までの臨床疫学的報告によれば、除菌による胃粘膜萎縮の改善及び胃癌発症の予防効果はHPと宿主との相互作用による粘膜の持続炎症の期間と程度、またその結果として引き起こされる粘膜萎縮の進展が重要であるとされている。本症例はHP除菌施行時に年齢が58歳と高齢であり、胃前庭部から体部の萎縮および腸上皮化生が高度であった。このような症例では、除菌成功後も内視鏡検査による長期間の経過観察が大切である。また萎縮と腸上皮化生、炎症が斑状に存在する胃粘膜においては腫瘍との判別が困難な場合があるため、内視鏡検査時には注意深い観察が必要である。