日本消化器内視鏡学会甲信越支部

16.側視鏡による十二指腸穿孔をクリップ閉鎖術にて保存的に加療しえた1例

長野中央病院
太島 丈洋、田代 興一、松村 真生子、三浦 章寛、小島 英吾

ERCP関連手技の偶発症である後腹膜穿孔のうち,内視鏡による穿孔については一般的には外科的治療を受けているものと考えられる.今回我々は側視鏡による十二指腸穿孔に際しクリップ閉鎖術にて保存的に加療しえた症例を経験したので報告する.症例は77歳男性.2008年腹部大動脈瘤手術を施行され,その際に膵IPMNを指摘された.2009年3月当科紹介となりIPMNの精査を行ったところ,IPMN混合型(最大径30mm・結節成分あり)と診断し手術適応病変と考えられたが大動脈瘤の術直後であったため御本人が手術を希望されず経過観察となった.2010年4月のCT検査でIPMN内の結節成分の増大が認められたため6月にERPを施行した.側視鏡を十二指腸に挿入し下行脚でのストレッチを試みた際,強い抵抗は感じなかったが画面上に後腹膜腔が観察された.急いでスコープを引き腸管の観察を行った所,Vater乳頭の対側やや口側よりの下行脚に約15mm大の穿孔を確認した.内視鏡室へ搬送し,CO2送気下で直視鏡にて4個のクリップで創部の閉鎖を行った.術後のCTでは十二指腸下行脚周囲から右腎周囲にまで広がるfree airを認めたが,後腹膜腔内に液体貯留は認めなかった.腹痛もなかったため,外科医と連絡をとりつつ保存的に加療することを選択し,経鼻胃管を挿入したうえで絶飲食と広域抗生剤+PPI+サンドスタチン投与を開始した.翌日には37.2度まで発熱し,CRPは穿孔後3日目に最大9.4まで上昇したが,その後は徐々に改善した.経過中腹痛は認めなかった.第7病日に十二指腸造影を施行し,リークのないことを確認したのち,第8病日から飲水を再開し第9病日からは食事も開始した.その後は特に問題なく経過し第14病日に退院となった.乳頭部穿孔や胆管穿孔は適切な胆道ドレナージを行えば保存的治療が可能であると考えられている.しかし内視鏡による十二指腸穿孔は穿孔部分が大きく,一般的には緊急外科的治療の対象になるとされてきた.一方,海外ではクリップ閉鎖術で保存的に治療可能であるとの報告も散見される.今回内視鏡穿孔の保存的治療につき文献的考察を含めて報告する.