日本消化器内視鏡学会甲信越支部

14.脾仮性動脈瘤胃穿破に対するコイル塞栓術後約9年経過し胃内へ再穿破を来たした1例

飯田市立病院 外科
水上 佳樹、金子 源吾、池田 義明、代田 智樹、前田 知香、服部 亮、秋田 倫幸、牧内 明子、平栗 学、北原 博人、堀米 直人、新宮 聖士、千賀 脩
飯田市立病院 消化器内科
中村 善行
飯田市立病院 放射線科
渡辺 智文

症例は52歳、男性。主訴は動悸、黒色便。既往歴はアルコール性慢性膵炎、糖尿病の他、平成13年1月に脾仮性動脈瘤の胃穿通を伴う消化管出血に対してコイル塞栓術を施行している。平成22年4月半ばより黒色便を認め、動悸を伴うようになったため5月20日当院内科を受診。同日胃カメラを施行。胃内に凝血塊は認めなかったが、体上部後壁大弯にコイルの露出を認めた。造影CTでは脾仮性動脈瘤内のコイルが胃内に穿通している所見の他、膵体尾部の高度の石灰化を認めた。また、Hbは5.8 g/dlと高度の貧血を認めた。入院後、輸血を行い安静状態で手術を待機していたが、5月26日深夜、出血性ショックを来たしたため緊急血管造影検査を施行。脾仮性動脈瘤から胃内への造影剤の漏出を認めたため、脾仮性動脈瘤の中枢および末梢側にコイルを留置し止血を行った。同日、脾梗塞および再出血に対する処置目的で緊急手術を施行。術中所見は、慢性膵炎によると思われる膵尾部周囲の高度の慢性炎症と線維化のため、通常の膵脾脱転操作は不可能と判断し、脾門部で脾動静脈を処理し脾を摘出した。また、胃後壁と脾仮性動脈瘤あるいは膵前面の間にも高度な癒着が存在し剥離困難であったため、胃後壁小弯を部分切除する形で胃と脾仮性動脈瘤を分離した。脾仮性動脈瘤は慢性膵炎によるものの他、外傷性、術後膵液漏によるもの等が挙げられるが、近接臓器への消化管出血を来たしたものは医中誌オンラインで1983年以降我々が検索した限りは 6症例であり比較的稀な病態であると思われる。若干の文献的考察を加え報告する。