日本消化器内視鏡学会甲信越支部

6.亜有茎性に隆起した直腸粘膜脱症候群の1例

JA 長野厚生連富士見高原病院外科
塩澤 秀樹、岸本 恭、安達 亙
JA 長野厚生連富士見高原病院内科
太田 達郎、小松 修

直腸粘膜脱(MPS)とは顕性あるいは不顕性の直腸粘膜の脱出により生ずる症候群であり、肉眼型より陥凹型、隆起型に分けられる。一般的に隆起型は直腸下端、歯状線近傍に多くみられ多くは広基性に隆起するものがほとんどで亜有茎性発育を示す隆起は比較的珍しいと思われる。今回、亜有茎性に隆起したMPS症例を報告する。症例は80歳女性、数年来より脱肛症状あり今年になって還納困難となり当科受診。便秘で下剤を長期に服用しており、1日5から6回の排便があり、1回の排便時間が1時間ぐらいとstrainerであった。MPSあるい直腸ポリープが疑われ精査を施行。肛門、直腸診では肛門の弛緩はなく7時と10時に亜有茎性の隆起性病変を触知した。粘血の付着あり可動性は良好でMPSの隆起型が疑われた。大腸内視鏡検査で病変部は表面は白苔が付着しており丈の高い亜有茎性のポリープ様隆起であった。超音波内視鏡検査では粘膜下層の脈管の拡張がみられた。MPSで一般的にみられる粘膜下層の肥厚ははっきりしなかった。以上より発症より長期経過に伴い症状が遷延したMPSと診断し脱肛病変部の切除を施行した。手術所見では12時と3時と7時と9時に内痔核とMPSによる隆起性病変を認めそれぞれ結紮切除を行った。病理組織診断ではいずれも粘膜筋板に連続する線維筋束の増生と腸陰窩の増殖を認め直腸粘膜脱症候群を示す所見であった。MPSの治療は排便習慣の改善等の保存的治療が原則であるが、難治性で症状が遷延する場合にはMPSの切除が必要な場合もある。MPSの自然史はあまり明らかではないが直腸末梢部では隆起型が主体であり上部直腸では潰瘍型が多いといわれている。また長期経過により平坦型が隆起型に移行するようである。本症例は長期経過にともない隆起が進行し亜有茎性になったと思われた。