日本消化器内視鏡学会甲信越支部

2.十二指腸癌に対して開腹下に内視鏡的十二指腸全層切除を行った一例

長野中央病院 消化器内科
小島 英吾、田代 興一、三浦 章寛、太島 丈洋、松村 真生子
長野中央病院 外科
弾塚 孝雄

症例は73歳,男性.既往に胃癌切除,B-1再建術歴あり.併存疾患として知的障害,難聴,てんかん,非定型抗酸菌症,S状結腸巨大結腸症がある.平成22年1月にスクリーニング目的に施行した上部内視鏡検査にて十二指腸下行脚Vater乳頭対側に約40mm大(約1/3周性)のやや褪色調で粗大な結節が癒合し中心部が陥凹したような形態を示す扁平隆起性を認め,生検にて腺癌を得た.SM癌を疑い開腹切除の適応と考えられたが,切離ラインを最小におさめ縫合しない限り,術後狭窄対策としてバイパス術を新たに付加しないとならないと考えたため,開腹の下,確実なマーキングと詳細な切離が可能である内視鏡的全層切除を行い外科的に縫合する方針とした.腹腔鏡下での合同手術も検討したが,胃切除後の癒着やS状巨大結腸症による視野不良が懸念されたこと,不慣れのため時間がかかることを考慮し,同年4月に開腹下で施行した.全身麻酔下に上腹部正中切開を置き,十二指腸を授動後,トライツ靭帯部にてクランプを行った.内視鏡にて周辺マーキングを漿膜側からも観察できるように強めに行った.腸管の虚脱予防のため,腹腔側からマーキングの外側に支持糸をかけ十二指腸を把持したのち,内視鏡下に針状メスにて腫瘍外側の一点を穿孔させ,その後ITナイフにて全層切除を行った.乳頭対側は約1/2周ほどの欠損部が生まれたが短軸方向に縫合し,終了とした.術後の検討では,腫瘍は45×25mm大のM癌であった.術後は狭窄症状も出現せず現在まで経過順調である.内視鏡下での全層切除術は開腹手術に比し,過不足ない切離線にて切除することができる利点が見込まれるが,穿孔した際の腸管の虚脱や漿膜近傍での大血管損傷による出血が危惧される.本法は,それらの欠点を補う方法として有用であり,今後も縮小手術の一つとして検討されてもよい方法と考えられた.