日本消化器内視鏡学会甲信越支部

83.消化管および腹腔内出血に対する緊急腹部血管造影施行症例の検討

新潟市民病院 消化器科
和栗 暢生、濱 勇、横尾 健、河久 順志、林 雅博、米山 靖、相場 恒男、古川 浩一、杉村 一仁、五十嵐 健太郎、月岡 恵

【はじめに】救急病院では腹痛や消化管出血を来した症例が多数搬送される。出血性病変のうち、多くは緊急内視鏡検査にて出血源が同定され、止血処置がなされることが多い。一方、稀ではあるが、原因不明の消化管出血、内視鏡的に止血不能の消化管出血、腹腔内出血などに対する緊急腹部血管造影を施行する症例もある。緊急腹部血管造影を施行した腹部出血症例について、その診断・治療について検討した。 【対象】対象は2007年以降、緊急腹部血管造影を行った35例のうち、重症急性膵炎の膵動注カテーテル留置目的の21例を除いた、出血性病変の14例。【結果】肝細胞癌破裂4例および肝損傷1例は全例ゼラチンスポンジによるTAEにて、胃弧発性静脈瘤1例はB-RTOにて治療に成功した。EST後乳頭部出血1例、膵癌十二指腸浸潤1例、潰瘍性大腸炎の十二指腸病変(全周性潰瘍出血)1例、慢性膵炎による非動脈瘤性hemosuccus pancreaticus 1例、腹部刺傷術後膵出血1例、下膵十二指腸動脈瘤破裂による後腹膜出血1例の非腫瘍性出血6例は全例マイクロコイルTAEにより止血し、手術を回避しえた。GISTによる小腸出血1例はマイクロコイルTAEにて止血の後、開腹手術を行い、GISTによる腹腔内出血の1例も診断後に開腹手術を行った。TAEが施行された症例で、臓器の虚血性変化による合併症はなかった。【考察】腹部緊急出血例では責任血管病変を的確にコイル塞栓することにより止血がなされ、膵や十二指腸などとくに手術侵襲が大きくなる部位の外科手術を回避することは有意義であり、IVRの果たす役割は大きいと思われた。腫瘍性病変が強く疑われる場合の血管造影は、その腫瘍血管の同定、出血責任血管の同定などが主目的となり、治療はあくまで手術が主体となると考える。