日本消化器内視鏡学会甲信越支部

81.人間ドックの上部消化管内視鏡検査等の後に一過性全健忘を来たした症例の検討

山梨県厚生連健康管理センター
小林 美有貴、北橋 敦子、今村 直樹、高山 一郎、渡辺 一晃、高相 和彦、依田 芳起

【背景】一過性全健忘(TGA:transient global amnesia)は、一過性の記憶障害を呈する症候群である。誘因は様々で、上部消化管内視鏡検査(EGD)を契機に生じることもある。多くは中年以降に突発し、意識障害を伴わない前向性と逆向性健忘を認める。同じ質問を繰り返すことが特徴で、発作中の記憶は欠落するが、多くは24時間以内に正常に回復する。TGAは基本的に生命予後に影響しないが、人間ドックでは受診者への対応や取扱いに苦慮することがあり、病態を理解しておくことは重要である。

 【対象】当センターでは、過去5年間に人間ドックでEGDを計87859例実施し、うち8例(0.01%)のTGAを経験した。また、呼吸機能検査において1例、ドック後の腹部造影MRI検査においても1例のTGAを経験している。今回、この概要を報告する。

 【症例】典型例を供覧する:症例は60歳、女性。てんかんの既往はない。過去7回、当センターの人間ドックでEGDを実施している。平成19年10月23日、当センターの人間ドックを受け、EGDは内視鏡専門医が3分弱で施行し、所見はびらん性胃炎、ポリープで、特に問題なく終了した。約1時間後、本人がスタッフに「なぜ、ここにいるのかわからない」「内視鏡を受けた記憶はない」等を繰り返し訴えた。神経所見及びMRI、MRA検査に問題はなく、TGAの発作を疑った。保存的に経過観察し、症状の拡大は認めなかったが、EGDに関する記憶は回復しなかった。

 【考察】TGAは以前より多数の報告がなされ、原因としては、情動を含めたストレスによる海馬などの辺縁系の機能低下が推定されている。具体的には、検査による不安や緊張などの精神的ストレスなどが誘因となっているものと推測される。TGAは、各種検査の合併症として知っておくべきである。若干の文献的考察を加えて報告する。