日本消化器内視鏡学会甲信越支部

76.高度の扁平上皮化生を伴った残胃癌の1例

新潟
神田 真由紀、本間 照、夏井 正明、青木 洋平、松澤 純、姉崎 一弥、杉山 幹也、渡辺 雅史
新潟大学 医学部 保健学科 臨床生体情報学
岩渕 三哉

胃癌取扱い規約では、病巣の少なくとも1/4が扁平上皮癌で占められているものを腺扁平上皮癌と定義している。発生頻度は0.26~0.53%と報告されている。今回われわれは十二指腸潰瘍術後残胃吻合部に発生した腺扁平上皮癌を経験したので多少の文献的考察を加え報告する。症例は70歳代、男性。40年前に十二指腸潰瘍のために幽門側胃切除術を受けた。黒色便と労作時息切れが出現したため当科受診した。3か月前には9.8であったHbが6.6と減少していた。血液検査所見上、鉄欠乏性貧血とCRP高値以外は特記すべき異常所見はなかった。上部消化管内視鏡検査で、吻合部小弯を中心に周提様の隆起を伴った潰瘍性病変を認めた。潰瘍は下掘れ傾向を示し、辺縁に明らかな粘膜内癌部を指摘できなかった。潰瘍底は凹凸不整が目立った。輸入脚と輸出脚の間の鞍状の部分は粘膜下腫瘍様に肥厚し、管腔は狭窄していた。吻合部に発生した3型進行胃癌と診断し複数個の生検を行ったが、組織はいずれも高分化型扁平上皮癌であり、腺癌成分は全く認められなかった。CTでは肺に腫瘤性病変を認めず、上部消化管内視鏡検査を再検したが、咽頭、食道に異常所見は見られなかった。以上から残胃吻合部に発生した原発性扁平上皮癌として残胃全摘術が施行された。切除標本では、吻合部に一致して全周に腫瘍塊を認め、空腸側にも浸潤を認めた。腫瘤は大きく分けて口側・胃の方には扁平上皮癌が、肛門側・空腸側には腺癌がみられた。腺癌成分と扁平上皮癌成分との混在する領域もあった。本例の腫瘍発生を想定する場合、非腫瘍性扁平上皮の残存は認めず、腺癌の腺管のなかに扁平上皮癌が見られたことから、腺癌が先に発生し、時間の経過と共に扁平上皮癌へ変化したものと推定された。