症例は86歳,男性.主訴は下血.入院14日前より黒色便あり.かかりつけ医にて上部消化管内視鏡検査を施行.噴門前壁側に出血を伴う腫瘤を指摘され紹介となった.特記すべき身体所見はなく,血液検査上軽度の貧血,及び腎機能障害あり.肝機能に異常は認めなかった.HBVAg,HCVAb陰性.CEA,CA19-9は正常範囲であったがAFP 57298,PIVKA-2 3220と高値を認めた.当科での上部消化管内視鏡所見では食道胃接合部前壁側に腫瘤全面より湧出性出血を伴う1型胃癌を認め,病理検体からは肝様腺癌組織が検出された.免疫染色にてAFP陽性であり,またPIVKA-2が異常高値であった事からAFP,PIVKA-2産生胃癌と診断した.腹部造影CTにて肝両葉に多発する腫瘤,及び胃小弯リンパ節腫大を認め,PET画像では噴門部,及び肝外側区域を中心に多発性のFDG集積を認めた.以上の画像所見より高分化型胃癌,多発肝転移が疑われ, Stage4と判断し化学療法を選択した.高齢であり,Crの上昇を認めていたためCDDPは使用せずS-1 80mg/day4投2休を開始.2クール目投与中に著明な黄疸の進行,肝機能障害にて再入院.全身状態の悪化を認め化学療法は中止とした.原発巣及び肝転移巣の著明な増大を認めており,急速な呼吸状態の悪化をきたし死亡した.AFP,PIVKA-2産生胃癌は急速な門脈浸潤,肝転移を来たすことを特徴とし,化学療法が有効とされる報告も散見されるが一般的に予後不良とされる比較的稀な病態である。今回我々は急速な増悪を示したAFP,PIVKA-2産生胃癌を経験したため多少の文献的考察を加え報告する。