日本消化器内視鏡学会甲信越支部

74.幽門に及ばない前庭部広範囲早期胃癌ESD後に通過障害を来たした2例

山梨大学医学部付属病院 第一内科
鈴木 雄一朗、辰巳 明久、岩本 史光、北村 敬利、山口 達也、大高 雅彦、佐藤 公、榎本 信幸

当院にて広範囲早期胃癌ESD後、遅発性に胃排出障害を来たした2例を経験したので報告する。症例1 69歳女性 体中部から近位前庭部後壁を中心としたIIa病変に対してESDを実施。病変は6.5cm×5.0cm、切除標本の大きさは9.0cm×6.5cm、前庭部は約4/5周性の切除となった。病理組織はWell differentiated tubular adenocarcinoma(Tub1,m,ly0,v0,LM(-),VM(-))であった。術後経過良好にて退院。ESD後30日頃より食事摂取が不良となり徐々に増悪したためESD後44日目に当科入院となった。上部消化管内視鏡検査では、食物残渣を多量に認め、胃角部を中心とした潰瘍はH2 stage相当となっており著明な小弯短縮を認めた。前庭部の狭窄を認めたがスコープの通過は容易であった。バルーン拡張術を3回実施、良好な拡張がえられ自覚症状の改善を認めた。その後自覚症状の増悪は認めていない。症例2 65歳女性 胃体中部小弯から前庭部小弯の後壁を中心としたIIb+IIa病変に対してESDを実施。病変は7.5cm×6.0cm、切除標本は10.5cm×8.5cm、前庭部では約2/3周性の切除となった。病理組織はWell differentiated tubular adenocarcinoma(Tub1,m,ly0,v0,LM(-),VM(-))術後経過良好にて退院。ESD後28日目で軽度の腹部膨満感あり、徐々に増悪を認めたためESD後44日目某院を受診。腹部レントゲンにて胃拡張を認めたため同院入院。上部消化管内視鏡検査にて小弯短縮を認め、前庭部の狭窄を認めたがスコープの通過は可能で、流動食より徐々に食事を増加させたが自覚症状の悪化なく、経過良好のため退院となった。ESD後90日目の上部消化管内視鏡検査では前庭部狭窄を認めるも残渣もなく経過良好である。広範囲早期胃癌のESD後、前庭部の狭窄による通過障害を来たしたと思われる2例を経験した。前庭部病変を含む広範囲ESD後では潰瘍の治癒過程において遅発性に一過性の通過障害を起こす可能性があると考えられた。自検例のうち、前庭部を含む切除標本50mmを超えるESD18例を含め報告する。