日本消化器内視鏡学会甲信越支部

73.早期胃癌を合併した胃限局性若年性ポリポーシスの1例

長野市民病院 消化器内科
越知 泰英、長谷部 修、原 悦雄、立岩 伸之、須澤 兼一、彦坂 吉興、多田井 敏治
長野市民病院 病理診断
保坂 典子

症例は59歳女性、脂質異常症にて近医加療中。家族歴に特記事項なし。2006年に前医で上部消化管内視鏡検査(EGD)を受けて胃多発性ポリープと診断された。生検病理結果で過形成性ポリープとされ、H.pylori 陽性であったため除菌療法を施行された。2009年になり軽度の貧血と低蛋白血症がみられるようになったためEGDを再検されたところ、ポリープの増大傾向と表面にびらん、出血が認められた。このため貧血に対して鉄剤を処方されると共にポリープの内視鏡的治療目的に同年6月当科に紹介された。理学所見では特記する異常を認めなかった。血液検査では、血算はRBC 490x104/mm3, Hb12.6g/dlであり、生化学はTP 6.0g/dl, Alb 3.8g/dlと軽度の低蛋白血症を認めた。抗ヘリコバクターピロリIgG抗体は4.1U/mlで陰性だった。EGD所見は、胃全体に発赤と浮腫状の粘膜をびまん性に認め、それに連続して大小の有茎性、無茎性ポリープが多数集簇していた。7月に径20mmを越える病変を内視鏡的粘膜切除術にて分割切除した。ポリープは組織学的には若年性ポリープに矛盾しない所見だった。ただし前庭部の長径40mm大の病変には、一部に腺腫様の異型腺管とより異型度の高い高分化型腺癌と判断される部分とが認められ、全て粘膜内に限局していた。このため、術後に下部消化管を検索したがポリープは認められなかった。以上より本例は胃限局性若年性ポリポーシスに早期胃癌を合併したものと考えられた。本疾患は稀であるがmalignant potential を有することが近年示唆されている。胃癌の合併は早期には発見されにくく進行胃癌で発見される例も報告されていることより、今後は手術も念頭においた厳重な経過観察が必要と考えられた。