日本消化器内視鏡学会甲信越支部

72.内視鏡的結紮術を施行したものの再出血を認めたDAVE の一例

長野中央病院 消化器内科
田代 興一、小島 英吾、太島 丈洋、松村 真生子、木下 幾晴

症例は61歳男性。2004年にアルコール性肝硬変で当院受診した際の上部消化管内視鏡検査にて胃前庭部にわずかな発赤点を数か所に認めた。貧血は認めなかったため経過観察を行ったところ、約5年間の経過で徐々に前庭部の発赤点はびまん性に認められるようになり、その範囲は次第に口側へ拡大していった。発赤点は、NBI拡大観察で粘膜表面の毛細血管の拡張を示し、生検でも毛細血管拡張が認められ、diffuse antral vascular ectasia(DAVE)と診断した。2009年4月の採血ではHb5.8 g/dlと強度の貧血を認めた。下部消化管内視鏡検査、小腸カプセル内視鏡検査では出血性病変を認めず、DAVEは送水により容易に出血を来したため、ここを出血源と考えた。DAVEに対する本邦での一般的治療はargon plasma coagulation(APC)だが、頻回の治療を要することが多い。近年海外では内視鏡的結紮術(endoscopic band ligation, EBL)による治療が優れているとする報告が見られる。このためわれわれはEBLを選択し、1回の治療にて合計30個のバンドを用いて結紮し終了した。治療後、狭窄や吐下血は認めなかった。しかし4ヵ月後、再度Hb 5.3 g/dlの貧血を認めた。内視鏡観察では、DAVEの面積は狭くなっていたものの、毛細血管拡張は残存していたため、この部位からの出血と考え、残存領域に対しAPCを行った。DAVEに対するEBLは、異常血管のある粘膜及び粘膜下層を瘢痕化させるため優れた止血効果が期待される。しかしDAVEの範囲が広い場合、全領域に対する治療はAPCに比して困難であり、残存領域が再出血の原因となると考えられた。