日本消化器内視鏡学会甲信越支部

71.胃前庭部広範囲潰瘍後に幽門狭窄をきたした1例

富士見高原病院 外科
高橋 佐智衛、塩澤 秀樹、岸本 恭、安達 亙
富士見高原病院 内科
唐澤 忠宏、矢代 泰章、太田 達郎、小松 修
富士見高原病院 放射線科
松下 智人

症例は75歳男性。既往歴に多発性脳梗塞、アルツハイマー型認知症あり。現病歴:急激に出現した血液混じりの嘔吐と腹痛を主訴に緊急入院した。理学所見にて貧血、心窩部の圧痛および四肢冷感を、CTにて胃壁の浮腫を認めた。上部消化管内視鏡検査にて胃体部、穹窿部の粘膜浮腫とびらん、前庭部に全周性の広範囲粘膜欠損、十二指腸下行脚に多発潰瘍を認めた。非常に強い急性粘膜障害と診断し抗潰瘍治療を行った。前庭部の全周性の広範囲潰瘍以外は治癒し一旦退院となったが、発症より46日目に食後の強い腰痛を訴え再入院した。上部消化管内視鏡検査にて胃前庭部に著明な瘢痕性狭窄を認めた。保存的治療を行ったが狭窄は進行し、発症84日目に幽門側胃切除術を施行した。 切除標本では、前庭部に全周性の潰瘍瘢痕があり、壁の肥厚と内腔の狭窄を認めた。病理組織学的には、筋層にまでおよび線維化を伴うUl-IIIの潰瘍瘢痕、軽度の炎症細胞浸潤、再生粘膜を認めた。特異的炎症所見、悪性所見およびピロリ菌感染は認められなかった。 前庭部の広範な全周性潰瘍をきたす症例はまれである。このような病態をきたした原因は判然としないが、本例では異物摂取による腐食性炎症の可能性が高いと考えられた。