日本消化器内視鏡学会甲信越支部

69.逆流性食道炎様の形態を呈した食道M1癌の1例

新潟医療生活協同組合 木戸病院 内科
摺木 陽久、上野 亜矢、佐藤 秀一
新潟医療生活協同組合 木戸病院 外科
山田 明

症例は70歳代、女性。平成20年12月市民健診の上部消化管内視鏡検査通常観察にて逆流性食道炎さらに胸部中部食道にNBI通常観察にてbrownish areaを呈する線状の発赤陥凹病変を認めた。同部の生検では炎症が高度であり癌との鑑別を要する異型細胞が認められるとの病理組織診断であった。PPIによる逆流性食道炎の治療を行い、平成21年3月に再検した。通常観察にて切歯列より30cm、6時に小発赤陥凹病変を認め、その周囲および遠位側には3cm長にわたり白色調の粘膜が連続していた。発赤部はNBI通常観察にてbrownish areaとなり、生検による病理組織学的診断はSCCであった。平成21年4月の再々検では、NBI拡大観察にてIPCLは井上の分類のtypeV-1、0’-IIc, M1癌と考え平成21年5月にESDを施行した。前回の発赤病変部は生検による修飾のために更に縮小しており、その周囲と遠位側に白濁粘膜が帯状に連なっていた。また遠位端に小発赤陥凹が存在し、これらのみNBI拡大観察でIPCLはtypeV-1であった。ヨード染色では、この2カ所と側方にごく小さな不染部を認め、白濁部位はヨード濃染を呈したが、基底層浸潤を伴うM1癌を疑った。0’-IIb+IIcを考慮しマーキングはIIcの周囲および連続する白濁粘膜をすべて切除するように行った。切除標本の病理組織学的診断は、0-IIb+IIc, 23x6mm大であり, SCC, EP, ly0, v0, pHM0, pVM0であり基底層浸潤が広く存在した。今回われわれは、逆流性食道炎様の形態を呈し、また範囲診断に苦慮したM1癌症例を経験したので報告する。