日本消化器内視鏡学会甲信越支部

66.ステロイド局注と内視鏡的消化管拡張術を併用した先天性下部食道webの一例

富士吉田市立病院 内科
山崎 貴久、平山 雄一、山本 泰漢、高橋 正一郎

【症例】19歳、男性。【既往歴】3〜7歳まで周期性嘔吐症の診断で入退院を繰り返し、他院に通院中。鉄欠乏性貧血の治療歴あり。【現病歴】発熱・下痢・嘔吐を訴えて当院受診。コーヒー様残渣嘔吐や食事摂取不良もあり、精査加療目的で入院となった。【入院後経過】胃腸炎や消化管出血が疑われ、補液などの保存的加療で軽快。しかし軽快後も固形物が摂取できず、生来ずっと摂取できていなかったことが分かった。上部消化管内視鏡検査(EGD)で下部食道に中央に数mmの管腔がある全周性膜様狭窄を認めた。食道造影検査でも膜様狭窄であり、組織生検は浮腫と極軽度の炎症細胞浸潤伴う食道重層扁平上皮を呈し、先天性下部食道webと診断した。また既往の鉄欠乏性貧血はPlummer-vinson syndromeであった。治療として切開及びballoonで内視鏡的消化管拡張術を行ない、固形物が摂取可能となった。しかし7日後のEGDで再狭窄傾向あり、切開とballoonで2回目の拡張術を行なった。その後、嚥下困難感なく退院した。外来で経過観察中、約2ヶ月で再び固形物摂取困難となり再入院した。EGDで下部食道webが再狭窄していたため、切開とballoonで3回目の拡張術を行なった。再び再狭窄が起こることが懸念され、5日後に4回目の拡張術を行ない、balloon拡張と食道webに対するステロイド局注を併用した。その後は約3ヶ月、狭窄症状はなかった。【考察】先天性の下部食道webは稀少な症例である。また一般的に食道狭窄は内視鏡的消化管拡張術を行なっても再狭窄が問題となるが、本例も同様であった。しかし内視鏡的消化管拡張術だけよりも、抗炎症作用のあるステロイド局注を併用した方が再狭窄を抑制すると報告されている。本例もステロイド局注の併用により、更に長く拡張効果が持続し、有用と考えられた。しかし長期効果については更に検討する必要がある。【結語】今回我々は先天性下部食道webの一例を経験し、それに対してステロイド局注を併用した内視鏡的消化管拡張術を行なった。その有効性が示唆されたため、文献的考察を加えて報告する。