日本消化器内視鏡学会甲信越支部

62.肝動脈塞栓術を施行した類上皮血管内皮腫の1例

佐久総合病院 内科
染谷 真紀、古武 昌幸、高松 正人、比佐 岳史、松本 隆祐、三石 俊美
佐久総合病院 外科
大久保 弘毅
佐久総合病院 臨床病理部
石亀 廣樹

【症例】50代女性。2005年3月、胸部から背部の痛みを主訴に来院した。胸腹部CTにて肝両葉、脾に多発する低濃度腫瘤を認めた。造影効果の乏しい腫瘤で内部に血管が走行している像が認められ、転移性肝腫瘍、悪性リンパ腫などが考えられた。縦郭・両側肺門部、腹部・骨盤に有意なリンパ節腫大は認めず、胸水・心嚢水・腹水は認めなかった。上下部消化管内視鏡検査にて異常を認めず可溶性IL-2レセプターは正常値であった。血管造影では、多発肝腫瘍の辺縁のみがenhanceされ、CTAPでは肝両葉にdefectとなる病変を認め、CTAでは腫瘍実質はenhanceされなかった。肝生検では類上皮血管内皮腫が疑われ、5月に肝多発腫瘤に対し肝切除術を施行した。開腹時に肝外側区下面に腹膜播種を認め、これが痛みの原因であると判断、症状の緩和及び確定診断目的に肝外側区域切除術を施行した。腫瘍は肝被膜直下の6cmの腫瘍で、灰白色で硬く、肝被膜領域は胼胝様に陥凹していた。病理組織診断では、腫瘍中心は線維化が目立ち、好酸性でepitherioid型の腫瘍細胞が広がっていた。免疫染色にて第VIII因子、CD34、CD31、Vimentinが陽性であり類上皮血管内皮腫と確定診断した。しばらくの経過観察の後、2005年10月から2006年1月まで、肝腫瘍に対して化学療法(CHOP療法)を6コース施行し外来にて経過観察していた。化学療法後も肝腫瘍は徐々に増大傾向を認めたため、2008年10月、11月にドキソルビシンを用いた肝動脈動注化学療法を二度施行した。動注後のCTにて腫瘍縮小せず、動注化学療法の反応不良と判断し、追加治療として2008年12月、2009年1月に、肝動脈塞栓術を施行した。2009年6月のCTにて肝内に多発する腫瘤は境界が不明瞭になり、全体の径も縮小傾向が認められた。経過中一貫して脾臓の腫瘤像には増大を認めなかった。【考察】肝類上皮血管内皮腫に対する治療法は未だ確立されていない。今回我々は、全身化学療法を行うも腫瘤の縮小を図れなかったが、肝動脈塞栓術にて腫瘤の縮小が認められた類上皮血管内皮腫の1例を経験したので若干の文献的考察も含めて報告する。