【はじめに】肝細胞癌に対する肝動脈塞栓術(TAE)は肝予備能と塞栓の程度を勘案しながら行われる。これらの肝機能障害は一過性であるが、肝予備能が悪いほど肝不全へ進行し、腹水、黄疸、肝性脳症、食道静脈瘤破裂などの症状が出現する危険が高い。【目的】TAEによる肝予備能の変化を明らかにし、術後に肝不全用経口栄養剤(アミノレバンEN)を用いた栄養療法で肝予備能が保持・改善されるか検討した。【対象】2006年11月から2009年3月にTAEを施行した10症例 延べ31回。【方法】アミノレバンEN(50g)を朝と夜の2回投与とし、術前、3日、1週、2週、4週、8週時にアルブミン、コリンエステラーゼ、プロトロンビン時間を測定し検討した。【検討項目】1)使用した抗癌剤(シスプラチン)の量による肝予備能の変化を検討した。2)同一症例においてアミノレバンENの内服なしでTAEを施行した場合とTAE後にアミノレバンENを内服した場合とで肝予備能の改善に差があるか検討した。3)全経過中、アミノレバンENを内服した群と全く使用しない群とでTAE後の肝予備能の改善に差があるか検討した。【結果】1)1回の治療に用いたシスプラチン量が50mg/bodyを超えるとアルブミン値の減少率は大きい。アルブミン値がTAE前値に回復するのは50mg/body未満では4週後、50mg/body以上では8週後であった。2)アルブミン値はTAE後2週で最低値を示すが、TAE後アミノレバンEN内服症例において減少率は小さく、回復が早い傾向であった。3)コリンエステラーゼはTAE後2週で最低値を示す。TAE後アミノレバンEN内服症例においては、減少率が小さいが、内服していても8週までに術前値までの回復は難しい。TAE前からアミノレバンEN内服している群においては、アルブミン値は早期(1〜2週間)にTAE前値に回復している。また、コリンエステラーゼはTAE後2週で最低値を示すが、減少率が大きくてもほぼ8週でTAE前値に回復した。【結語】アミノレバンEN投与は肝癌に対するTAE前からの投与が望ましいが、TAE後からの投与でも肝予備能の保持・改善に有効である。