日本消化器内視鏡学会甲信越支部

59.仙骨部転移を伴う巨大肝細胞癌に対してSorafenibを投与し腫瘍崩壊をきたした一例

信州大学 医学部 第二内科学教室
小林 聡、城下 智、森田 進、上條 敦、小松 通治、梅村 武司、一條 哲也、松本 晶博、吉澤 要、田中 栄司

症例は33歳,男性。既往歴,家族歴に特記事項なし。2008年,左下肢疼痛,痺れを主訴に前医を受診しMRIで仙骨に腫瘍認め当院へ紹介。腹部CTにて肝右葉に110mm大,仙骨部に70mm大の多血性腫瘍病変を認めた。血液検査ではAFP 2560 ng/ml(L3分画 <0.5%),PIVKA2 781 mAU/mlと著増していた。仙骨部の腫瘍組織生検では,異型細胞が髄様に浸潤増殖し,免疫染色でHep Par 1陽性であり,高分化型肝細胞癌および仙骨転移と診断した。ウイルス性肝疾患,糖・脂質を含む代謝性疾患,画像検査で肝硬変や血管系の破格所見のいずれも認めなかった。以後12ヶ月間に放射線照射,肝動脈化学塞栓術,肝動注化学療法を行ったが効果は一時的で腫瘍は増大,肺・骨転移巣の増加を認めた。2009年,説明と同意を得て外来通院でSorafenib 800 mg/日投与を開始した。投与前AST 102 IU/l,ALT 28 IU/l,LDH 377 IU/l,K 4.3 mmol/l, P 3.9 mg/dl,AFP 91260 ng/ml,PIVKA2 30533 mAU/ml,肝最大腫瘍径78×63mm,同仙骨102×110mmであったが,投与後4日目から発熱,7日目には AST 788 IU/l,ALT 105 IU/l,LDH 3016 IU/l,K 4.9 mmol/l,P 3.9 mg/dlと腫瘍崩壊症候群への移行が疑われたため休薬とした。14日目には腹部CTにて肝最大腫瘍径78×60mm,同仙骨101×102mmと大きな変化は認めなかったが,腫瘍内部の低吸収域多発所見を認め,24日目にはAFP 60810 ng/ml,PIVKA2 11701 mAU/mlでありSorafenibによる腫瘍壊死効果と考えられた。SorafenibはVascular Endothelial Growth Factor阻害を主とした分子標的薬であり,切除不能な肝細胞癌に対して外来治療開始も可能である。しかし,既報の副作用に加え,腫瘍が巨大な症例においては投与初期に腫瘍崩壊症候群を引き起こす可能性があり,慎重に経過を観察する必要がある。