日本消化器内視鏡学会甲信越支部

58.多結節融合型を呈した肝細胞癌の一例

松村 真生子、太島 丈洋、田代 興一、木下 幾晴、小島 英吾
長野中央病院 消化器内科
大野 順弘
長野中央病院 病理科
藤永 康成
信州大学付属病院 放射線科

症例は60歳男性.糖尿病, 高血圧で他院に通院中であった.平成21年5月, スクリーニングのために施行された腹部超音波検査にて肝S8に35mm大の腫瘤が指摘され, 精査目的で紹介された.42歳までアルコール多飲歴があったが, 現在は禁酒中である. 身長175cm, 体重 90kg, BMI 29.4と過体重である以外は視診, 触診上異常を認めなかった.初診時採血検査では, 各種ウイルスマーカーや自己抗体は陰性で, 肝機能もほぼ正常値であった.腫瘍マーカーではAFP, PIVKAII, CEAはともに正常値であり, CA19-9のみ軽度の上昇を認めた.同腫瘤は, 腹部超音波検査では, 被膜を持たない不整形の低エコー結節として観察できた. 内部は一見モザイク状だが, 一部に比較的大きな無エコー領域を伴っていた.ソナゾイドRを使用した造影超音波検査では, 腫瘤の辺縁は血管相早期から速やかに濃染し, 後期相ではwash outし, 周囲肝実質と同等の染影を呈した.ただし, 内部の無エコーであった部分には血流は観察できなかった. 後血管相では辺縁が花弁状の形態を呈する明瞭な陰影欠損として観察できた. 腹部造影CT検査, 血管造影検査, 動注CT検査にて, 腫瘤辺縁は動脈血流にて濃染, 門脈血流欠損を呈し, 腫瘤内部は乏血性の境界不明瞭な腫瘤として観察できた. SPIO MRIでは比較的境界明瞭な腫瘤であった.画像所見より, HCCは否定できないが, 古典的肝細胞癌とはやや異なる像を呈していたことから転移性腫瘍もしくは混合型肝細胞癌, 細胆管癌なども視野に入れ, 手術を行った.切除標本では被膜を持たない多結節融合型の腫瘤で, 全体が高分化〜中分化型の肝細胞癌であった.門脈浸潤が多数認められ, 経門脈的肝内転移により腫瘍が散布されたために, 非典型的な形態を呈したと考えられた.このような肉眼形態を呈した過程に付き, 多少の考察を加え報告する.