日本消化器内視鏡学会甲信越支部

57.診断に苦慮した硬化型肝細胞癌の1例

山梨県立中央病院
津久井 雄也、望月 仁、吉田 貴史、浅川 幸子、細田 健司、鈴木 洋司、小嶋 裕一郎、廣瀬 雄一、小俣 政男
山梨県立中央病院 外科
鷹野 敦史、赤澤 祥弘、三井 照雄
山梨県立中央病院 病理
小山 敏雄

症例は60歳代男性。生来肝機能異常を指摘されたことはない。2008年9月の検診で初めて腫瘍マーカー(AFP)の上昇を指摘された。同月、近医を受診しAFP 599ng/ml, L3分画 64%と高値を認めたが、それ以外の血液検査所見、腹部エコー、上・下部消化管内視鏡検査で異常所見を認めなかった。2009年1月に某院を紹介受診。腹部造影CTでは肝内に肝細胞癌(HCC)を疑う結節はなく、副脾を疑う20mm大の結節を左横隔膜下に認めた。2009年4月1日AFP上昇の原因精査目的に当院を紹介受診となった。 AFP 694 ng/ml, L3分画72.6 %, PIVKA-II 61.0 MAU/ml, HBs Ag, HBs Ab, HBc Ab, HCV Abはいずれも陰性であった。 当院でEOB-MRIを実施、同様に肝内にHCCを疑う所見はなく、左横隔膜下の結節は、副脾の診断であった。2009年7月に腹部造影CTを施行。左横隔膜下の結節の肝臓との連続性が判明し、7月7日、精査目的に当科入院となった。腹部血管造影検査で左肝動脈からの造影で左横隔膜下の結節に腫瘍濃染像を認め、HCCと診断した。8月10日、腹腔鏡下に腫瘍切除が試みたが、腫瘍と横隔膜が強固に癒着し、開腹手術に移行。腫瘍は横隔膜との剥離困難で、肝部分切除+横隔膜合併切除術を施行した。病理標本では腫瘍は被膜をもたず豊富な線維性間質を有し、硬化型肝細胞癌と診断した。また腫瘍は横隔膜へ連続性に浸潤していた。

肝外の結節と考えられ、診断に苦慮し、また病理組織学的にも稀な硬化型肝細胞癌の1例を経験したので、若干の文献的考察を含め報告する。