免疫抑制剤や抗癌剤の投与の際にHBVの再活性化によるde novo肝炎が注目を集めている。原因となる薬剤としてはリツキシマブの報告が多いが、抗TNF製剤に関してはデータも少なく、その指針は決まっていない。今回HBVキャリアーのRA患者2名に対してETVを内服しながら抗TNFαレセプター製剤であるETNの治療をおこなった症例を報告する。
症例1 57才男性。2000年発症のRAでDMARDSによる治療をおこなっていたが、症状の増悪のため生物学的製剤の投与が検討された。HBVキャリアー(HBV-DNA 4.0 logc/ml)であることが判明したため、MTXを併用する必要のないETNを選択した。ETN投与開始二週間前からETV 0.5mgの内服を開始した。ETV内服後のHBV-DNAは感度以下に低下した。しかし、ETN投与40日後よりAST、ALTの上昇がみられ、HBV-DNAも1.8logc/ml未満と若干上昇した。注意深く経過観察を行ったが、約二週間でAST、ALTは正常化しHBV-DNAも3ヶ月後に再び感度以下となった。その後現在までETNとETVの治療を継続中である。
症例2 54才女性。1999年発症のRAでDMARDSによる治療を行っていた。2003年からMTXが、その半年後にはPSL3〜5mgの内服が開始された。効果不十分のため2006年からはinfliximabの治療が行われた。HBVキャリアーであることは判明していたが、対策はとられなかった。しかし、infliximabの効果も不十分のため中断された。外来主治医が交代したことがきっかけとなりHBVキャリアー(HBV-DNA 4.0logc/ml)が再認識され、infliximab使用の際に併用されていたMTXを中止するにあたりHBVの再活性化が危惧されETV0.5mgの内服を開始した。その2週間後よりMTXを減量、その後中止した。ETV内服一ヶ月後にはHBV-DNAは感度以下となった。MTX中止後一ヶ月後よりETNの自己注射をおこなっている。今のところHBV-DNAの陽性化、aminotransferaseの上昇はみられていない。
症例2はMTX、PSL、infliximabによる治療をおこなっていたにもかかわらず、HBVの再活性化が起こらず幸運な症例であった。2例とも現在は順調に治療が進んでいるが、HBV-DNAの陰性化がETNの治療に必要かは症例の蓄積による検討が必要と考える。