日本消化器内視鏡学会甲信越支部

54.大柴胡湯による薬剤性肝障害の一例

伊那中央病院
内田 三四郎、丸山 敦史、井上 勝朗、城崎 輝之

大柴胡湯による肝障害の一例を経験したので若干の文献的考察を含めて報告する。症例は42歳、女性。既往歴及び家族歴に特記事項無し。生活歴では機会飲酒、喫煙歴無し。現病歴は2009年4月中旬より大柴胡湯エキスを服用開始、6月中旬頃より全身の皮膚掻痒感を自覚徐々に増悪した。6月下旬に入って眼球黄染、褐色尿が出現、食欲不振も伴ったため6月26日近医を受診した。黄疸及び肝障害を指摘され当科紹介受診となった。入院時理学的所見では結膜に黄疸あり、腹部では肝臓は触知せず。波動も認められなかった。羽ばたき振戦陰性。血液生化学検査でT.Bil 7.81 mg/dl(D.Bil 6.17 mg/dl), AST 1071 U/l, ALT 2000 U/l, ALP 478 U/l, γGTP 84 U/l, TTT 9.9 Kunkel, ZTT 7.9 Kunkel, IgG 1338 mg/dl, IgM 157 mg/dl, PT(%) 89.4 %と黄疸を伴う肝障害を認めた。生肉等の摂取歴無く、最近の海外渡航歴無し。IgM-HA抗体陰性, IgM-HBc抗体陰性、HBs抗原陰性、HCV抗体陰性、抗核抗体陰性、CMV-IgM抗体陰性、EBウイルスは既感染パターンを呈していた。服薬中止、グリチルリチン酸製剤静脈内投与を含む保存的加療で速やかに肝障害は改善し入院第13病日にはAST 85 U/l, ALT 256 U/l, T.Bil 2.21 mg/dlとなり退院した。肝生検は同意を得られず未施行となった。発症時期及びその後の経過から大柴胡湯による薬剤性肝障害と診断した。ちなみに薬剤性肝障害スコアリング(DDW-J2004)では7点、DLSTは陰性であった。大柴胡湯は医療用としては胆石症、便秘、高血圧症に伴う諸症状の緩和等に使用され、市販品では肥満症で体脂肪減少の効能を謳った製品も存在している。各社の添付文書に黄疸、肝機能障害の記載はあるものの発現頻度に関しては不明である。巷間には漢方薬には副作用が無いとの誤解が流布しており、近年の健康食品、ダイエット食品のブームの高まりに際して今後症例増加が懸念されるため、注意喚起が必要と考えられた。