日本消化器内視鏡学会甲信越支部

53.上腸間膜静脈−下大静脈シャントによる肝性脳症に対し,手術加療が有効であった一例

相澤病院 消化器内科
關 伸嘉、西条 勇哉、山本 智清、海野 洋、薄田 誠一
諏訪赤十字病院 外科
梶川 昌二

【はじめに】猪瀬型肝性脳症は門脈−体循環短絡に伴う反復性の意識障害であり,種々の短絡が報告されている.今回我々は上腸間膜静脈−下大静脈短絡(Mesocaval shunt)によるものを経験したため文献的考察を加え報告する.【症例】70歳男性.常用大酒家.原発性胆汁性肝硬変(PBC)を以前より指摘されていたが放置していた.2008年9月上旬より家族の呼びかけに応じないため,当院に救急搬送となった.JCS200の意識障害とはばたき振戦,血中アンモニア高値(219μg/dL)などより肝性脳症と診断し,分岐鎖アミノ酸輸液・ラクツロースなどによる治療を開始し,速やかに改善を認めた.腎障害(Cr 1.9mg/dL)を認めたため,造影CTは見合わせ,上腹部MRAによりシャント検索を行ったが,明らかな短絡路は指摘できなかった.分岐鎖アミノ酸製剤・下剤などの内服薬にて,経過観察行っていた.しかし内服を行っていたにもかかわらず,2008年11・12月・2009年1月と脳症の反復を認めた.腎障害の改善(Cr 1.3mg/dL)も認めたため,全腹部造影CTを施行したところ,上腸間膜静脈−下大静脈短絡が明らかになった.短絡血管拡張は著明で,IVRによる加療は困難と判断した.2009年2月には保存的加療による脳症のコントロールが不能となったため,2009年3月に手術を施行した.回盲静脈・右精巣静脈を介しての上腸間膜静脈−下大静脈短絡を確認し,結紮し閉鎖した.術後,脳症の再燃は認めなくなった.一過性の腹水貯留は認めたものの,速やかに改善を認めた.門脈圧亢進症の増悪が懸念されたが,2009年5月に施行した上部消化管内視鏡上ではL1F1の軽度の食道静脈瘤の出現を認めるのみであった.