日本消化器内視鏡学会甲信越支部

51.短期間の大量飲酒により高度な黄疸と意識障害をきたした重症型アルコール性肝炎の一例

長野赤十字病院 消化器内科
徳竹 康二郎、宮島 正行、今井 隆二郎、三枝 久能、藤澤 亨、森 宏光、松田 至晃、和田 秀一、清澤 研道

症例は50歳女性。若い頃接客業に従事したことがあり、当時は飲酒歴があったが、10年前に結婚し出産後はほとんど飲酒していなかったという。2009年5月入院の約2週前から焼酎500mlを毎日飲んだ。入院10日前から38℃の発熱があり、黄疸も出現した。5月18日早朝、家人の呼びかけに反応せず、当院に救急搬送された。意識レベルはJCS-100で、本人からの病歴聴取は不能であった。脳波は三相波で、血液検査ではWBC 11200 /μl、RBC 340 /μl、Hb 14.3 g/dl、Plat 17.9 /μl、AST 219 IU/l、ALT 50 IU/l、ALP 503 IU/l、r-GTP 333 IU/l、T.Bil 20.3 mg/dl、D.Bil1 6.6 mg/dl、TP 6.1 g/dl、Alb 2.6 g/dl、PT-INR 1.69、NH3 243 μg/dlと高度の黄疸、高アンモニア血症を認めた。血漿アミノ酸分析では特に問題となる所見は得られなかった。入院半年前に腹痛のため撮影されたCTでは肝の形態異常は認めなかったが、入院時のCTでは高度の肝腫大と著しい脂肪化を認めた。第2病日には意識レベルがJCS-300に悪化した。肝炎ウイルスマーカーは陰性で自己免疫性肝炎を示唆する所見はなく、この時点で飲酒形態ははっきりしなかったが重症型アルコール性肝炎を強く考え、血漿交換および血液濾過透析による人工肝補助療法を開始した。第4病日より意識障害の改善がみられ、血漿交換4日間、血液濾過透析6日間を施行した。 その後T.Bil値は入院時を最高値として低下し、transaminaseも漸減した。肝腫大と高度の脂肪沈着はその後も認められた。黄疸、凝固障害の改善後第55病日に肝生検施行。小葉内には大滴性の脂肪化を高度に認め、グリソン鞘周囲および中心静脈周囲の放射状の線維化が認められた。以上より、本例はアルコール性線維症を背景に短期間の大量飲酒により引き起こされた重症型アルコール性肝炎と考えた。重症型アルコール性肝炎に対する急性期治療として人工肝補助療法が有効であったと思われた。