日本消化器内視鏡学会甲信越支部

50.自然消退を術前に認め、経過観察できた肝炎症性偽腫瘍の1例

山梨大学 医学部 第1外科
細村 直弘、松田 政徳、浅川 真巳、雨宮 秀武、川井田 博充、河野 寛、藤井 秀樹
山梨大学 医学部 第1内科
雨宮 史武、北村 敬利、井上 泰輔、坂本 譲、岡田 俊一
山梨大学附属病院 検査部
福島 貴美代

症例は62歳男性。近医で糖尿病の悪化と腹部エコー上肝腫瘍を指摘され、当院内科を紹介受診。外来受診時、心窩部に肝を3横指触知。発熱、腹痛なし。血液検査所見は白血球5930、CRP0.35mg/dl、ALP584IU/l、γ-GT238IU/l、GOT56IU/l、GPT80IU/l、HBs抗原陰性、HCV抗体陰性、CEA2.6ng/ml、PIVKA-II 15mAU/ml、AFP5.7ng/ml。エコー上、肝S6/7に径64mmの境界不明瞭で内部に車軸状血管のある低エコー腫瘤が描出され、限局性結節性過形成が疑われたが、CTでは車軸状血管を認めず動脈優位相での不均一な造影と遅延相での染まり抜けから肝細胞癌が疑われ、手術目的で外科へ入院した。入院時、CRPと肝機能検査は正常化していた。MRI上、肝腫瘤はT1でlow、T2でhigh、DWIで高信号、EOB造影による肝細胞相でlowであり、またP7の閉塞を認めた。血管造影ではCTAPで陰影欠損となり、CTA早期相の不均一な造影と後期相のコロナ濃染、更に平衡相で明瞭な造影剤の残存を認めた。以上の所見より線維化を伴う肝癌と診断したが、再度腹部エコーを施行すると腫瘍径は1か月間に1cm縮小しており、CTでも同様の所見を示したことから腫瘤は炎症性偽腫瘍である可能性が強く示唆され、外来経過観察とした。初回から約2か月半後のエコーで腫瘍径は27mmまで縮小し腫瘤境界は更に不明瞭となった。肝腫瘍の生検では形質細胞とリンパ球を中心とした炎症細胞浸潤を認め、また、一部に壊死所見を伴う類上皮細胞肉芽腫とラングハンス型巨細胞を認めたが、好酸菌染色は陰性であった。以上より炎症性偽腫瘍と診断した。炎症性偽腫瘍は画像診断上悪性腫瘍との鑑別が難しいことも多く、切除されて初めて診断されることが多い。今回、我々は術前に炎症性偽腫瘍を疑い、経過観察と生検により手術を回避できた症例を経験したので、文献的考察を加えて報告する。