日本消化器内視鏡学会甲信越支部

49.術前に肝細胞癌と診断された肝reactive lymphoid hyperplasiaの1例

信州大学 医学部 消化器外科
鈴木 史恭、横山 隆秀、秋田 眞吾、内川 裕司、本山 博章、清水 明、中田 岳成、小林 聡、三輪 史郎、宮川 眞一
信州大学 医学部 附属病院 放射線部
黒住 昌弘
信州大学 医学部 附属病院 臨床検査部
浅香 志穂、福島 万奈

症例は65歳、女性。1964年、多量の鼻出血に対して血漿分画製剤の投与をされた。1998年9月、出血性胃潰瘍にて近医へ入院した際に慢性C型肝炎を指摘され、1999年にイントロンA単独療法を受けるも無効であり、その後は外来通院にて経過観察されていた。2008年12月の腹部CT検査にて肝S4に直径7mm大の腫瘍性病変を認めたため、当院消化器内科に紹介された。血液データではHCV抗体陽性であったが、肝機能異常は認めず、腫瘍マーカーは陰性であった。腹部CT検査にて,腫瘍は早期相で濃染され、後期相では低吸収域として描出された。腹部MRI検査ではT1で低信号、T2で高信号であり、EOB-MRI検査では造影剤の取り込みは認めなかった。腹部血管造影検査では淡い濃染像を示し、CTHAでは早期相で辺縁優位の濃染像、後期相で被膜濃染像を認め、CTAPでは堂部位にperfusion defectを認めた。CTHA、CTAPでは肝S2にも腫瘍性病変を認めたが微小病変のため確定診断は困難であった。また、いずれの腫瘍も体表からの腹部超音波検査では確認できなかった。以上の検査所見と患者背景から肝S4の肝細胞癌(S2に関しては疑い)と診断され、手術目的に当科紹介となり、2009年5月29日に腹腔鏡補助下肝切除術を施行した。術中超音波検査では肝S2の腫瘍は同定できず、肝S4の部分切除のみ施行した。病変は直径11mm×8mm×6mmで白色、境界明瞭な充実性腫瘍であった。病理組織学的には腫瘍内に複数のリンパ濾胞形成を認め、形態と免疫染色から肝reactive lymphoid hyperplasia(RLH)と診断された。RLHは異型がないリンパ球が多クローン性に増殖し、反応性の胚中心を伴ったリンパ濾胞を認める良性疾患とされている。消化管、眼窩、肺、皮膚などに発生することが多く、肝原発性のものは稀である。今回我々は術前に肝細胞癌と診断され、術後の病理組織学的検査でRLHと診断された症例を経験したので、文献的考察を加えて報告する。