日本消化器内視鏡学会甲信越支部

44.腹側膵回転異常の一例

飯山赤十字病院 内科
山田 重徳、山田 雪、横澤 秀一、村木 崇、上條 浩司
飯山赤十字病院 外科
芳澤 淳一、柴田 均、中村 学、石坂 克彦
信州大学医学部附属病院 放射線科
黒住 昌弘

膵臓は複雑な発生経路をとるので様々な形成異常を生じる。胎生6週から内臓回転が始まり、腹側膵原基は原始総胆管とともに時計方向に回転し、7週には背側膵原基の下方に癒合する。その際、腹側膵の一部が固定されたまま回転し癒合すると輪状膵となる。今回我々は腹側膵が回転せず、背側膵と癒合しないまま十二指腸右壁に乳頭形成を来したと思われる症例を経験したので報告する。症例は52歳男性、平成21年6月より数時間程度持続する心窩部痛をしばしば自覚していた。7月に入り、激烈な心窩部痛が出現し当院救急搬送、高度の炎症反応の他、肝胆道系酵素、血清アミラーゼの上昇を認めた。腹部CTでは、膵臓は十二指腸下行脚を挟んで腹側膵と背側膵に二分しており総胆管は腹側膵側より十二指腸に開口していた。胆嚢・総胆管内に多発する結石と胆管、胆嚢の壁肥厚に加え、腹側膵の腫大と周囲のfluid collectionを認めた。総胆管結石に伴う急性胆管炎と腹側膵限局の胆石性膵炎と診断、緊急ERCPを施行した。Vater乳頭は十二指腸下行脚右壁に認め、腹側膵管は造影可能であったが胆管造影はできなかった。膵管ステントを留置し手技を終了とし、翌日再度ERCPを施行、膵管ステントをガイドに針状ナイフにてpre-cut後、胆管造影に成功した。2個の胆管結石が自然排石されたが、胆管とカテーテルの軸が合わず胆管深部挿管は困難であり、結石除去及び胆道ドレナージ術は失敗に終わった。内視鏡的処置は困難と考え、保存的加療後7月下旬に胆嚢摘除、総胆管結石除去術を施行した。開腹すると腹側膵回転異常の他、腸回転異常を認めた。胆嚢摘除後、胆管結石再発に備え乳頭形成術を試みたが、十二指腸は腹側膵と背側膵に覆われており、乳頭へのアプローチが困難であった為、胆管結石除去後T-tubeを留置し終了とした。術後、乳頭形成術の代わりにランデブー法にてEST大切開を追加施行した。本症例は、膵の癒合不全の他、腸回転異常、下大静脈欠損症、気管分岐異常に加え、T-tubeからの胆管造影にて胆管形成異常を認めた。膵管癒合不全や輪状膵は時に経験するが腹側膵の回転異常による膵実質の癒合不全はまれと思われ、報告する。