症例は74歳男性、主訴は腹痛。2007年9月頃より空腹時に多くみられる心窩部痛を自覚し、10月の人間ドックで異常なしといわれ経過をみていた。その後腹痛が増悪し2007年12月4日に近医を受診。腹部超音波検査にて総胆管および主膵管の拡張を認め、CTにて乳頭部に造影効果を認めたためERCP(EST)+ERBD施行された。このとき施行された胆汁細胞診、乳頭部生検では異常を認めず、精査目的にて2008年1月11日に当科紹介受診となった。 2008年2月12日〜3月1日まで入院精査を施行(ERCP, CT, MRI, 胆汁細胞診)したが、膵頭部のIPMN以外に明らかな問題点は認められず経過観察となった。外来経過観察中、持続する腹痛およびCEAの上昇を認め精査加療目的に2009年2月20日入院となり、ERCP下に施行した膵液細胞診でClass5の診断であったが、癌の局在の認識は困難であった。画像上は良性と思われる膵頭部のIPMNを含めたPpPDの予定であったが、術中細胞診で膵断端陽性となり最終的に膵全摘術となった。病理では膵全体の膵管に上皮内癌が広範に存在し、膵鈎部および尾部では実質浸潤を認めた。膵頭部のIPMNは腺腫であり、IPMNと上皮内がんとの間に連続性はなかった。 本症例は良性のIPMNに合併した浸潤性膵管癌であり、術前の画像では浸潤癌の局在の認識が困難であった。広範な上皮内進展を示す極めて稀な進展形式に加えて、上皮内癌に由来すると思われる膵液細胞診陽性が治療方針の決定に役立ち、膵液細胞診の重要性を再認識させられた貴重な症例であり報告する。