日本消化器内視鏡学会甲信越支部

30.広範囲進展をきたした胆管内乳頭状腫瘍(IPNB)の1例

山梨大学 医学部 第1内科
岩本 史光、深澤 光晴、高野 伸一、辰巳 明久、門倉 信、山口 達也、大高 雅彦、大塚 博之、佐藤 公、榎本 信幸

症例は82歳男性。既往歴は18歳時に虫垂炎で手術、家族歴は特記すべき事項なし。2007年10月に総胆管結石による急性胆嚢炎を発症し、当科にてESTによる排石を行った。その際にCT、MRIで肝S1に18mm大の多房性の嚢胞性病変を指摘されたが、悪性を示唆する所見を認めず経過観察の方針となった。その後、近医で腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行され、定期経過観察されていた。2009年7月に血液検査で胆道系酵素の上昇を認め、CTにて嚢胞性病変の増大および肝内胆管拡張がみられたため、当院に再紹介となった。腹部超音波検査では、S1に3cm大の嚢胞性病変、左肝管内に肝実質とほぼ等エコーの腫瘤像を認め、左外側区胆管の拡張がみられた。CTでは肝S1の嚢胞内結節と左肝管内腫瘤は動脈相で弱い染影効果を示し、平衡相まで遷延した。また、右前区域枝の軽度拡張を認めた。ERCPでは、総胆管内には粘液と考えられる不整な透亮像を認め、肝門部から左肝管に及ぶ陰影欠損を認めた。また、右肝管からの造影でB8末梢に造影欠損を認めた。左肝管からのIDUSでは肝門部からB4分岐部まで胆管壁肥厚をみとめ、右肝管からのIDUSでは右肝管根部からB8末梢に連続する壁肥厚を認めた。左右肝管からの細胞診では粘液を有する腺癌細胞を認めた。S1を主座として、左肝管(B4分岐まで)、右前区域枝に進展する粘液産生性の胆管内乳頭状腫瘍(IPNB)と診断した。病変の進展範囲から、根治療法としては肝右もしくは左3区域切除が必要であるが、肝予備能、年齢から困難と考えられ、化学療法(S-1単剤)を選択した。2年間の経過で広範な進展をきたしたIPNBの1例を経験したので、文献的考察を加え報告する。