日本消化器内視鏡学会甲信越支部

26.溶血性尿毒症症候群(HUS)を合併した腸管出血性大腸菌O157 大腸炎の1例− HUS を合併した本邦成人例の検討

国立病院機構長野病院 消化器科
丸山  真弘、藤森 一也、鶴田 史、滋野 俊
丸の内病院 消化器内科
中村 直
飯山赤十字病院 消化器
村木 崇

症例は25歳、女性。平成18年8月2日より嘔気が出現、翌日にも嘔気が続き摂食できなくなり当院を受診した。輸液、制吐剤にても嘔気が治まらないため入院した。また、入院時より軟便が出現した。入院時、貧血、黄疸はなく、腹部は平坦、軟で圧痛はみられなかった。検査値はWBC 12600 RBC 467 Hb 15.0 Hct 44.0 PLT 23.5 CRP 0.9 LDH 179 BUN 7.3 Cre 0.5 Na 137 K 3.7 Cl 100 、尿検査に異常を認めなかった。入院2日目朝から血性下痢、腹部疝痛が出現した。大腸内視鏡検査で右側結腸に著しい浮腫、発赤、びらん、易出血性粘膜を認め、これらの炎症所見は、左側結腸に移行するに従い漸減した。内視鏡所見から腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症が疑われた。ホスホマイシンの内服を開始した。入院3日目に便培養検査でEHEC O157:H7 が検出された。その後、腹痛、血性下痢はやや改善したが、入院5日目の朝から、肉眼的血尿が出現した。検査値で血小板減少、溶血性貧血(Hb 低下、LDH 増加、ハプトグロビン低下)がみられ、溶血性尿毒症症候群(HUS)の合併と診断した。血漿交換療法3回、血小板輸血10単位、赤血球輸血4単位を行った。透析は施行せずに、HUS は漸次改善した。本邦では、年間2000人程度のEHEC 感染者が発生し、その内HUS の発生頻度は2.2% 程度といわれている。その多くは15歳以下の小児であることもあり、これまでHUS を発症した成人例についての検討は少ない。本邦での過去の報告例に自験4例を加えて、成人例のHUS を合併したEHEC 感染症の検討を行った。