日本消化器内視鏡学会甲信越支部

21.食道潰瘍を合併した潰瘍性大腸炎の1例

新潟大学医歯学総合研究科 消化器内科学分野
森田 慎一、田中 由佳里、矢野 雅彦、小林 正明、大越 章吾、青柳 豊
新潟大学医歯学総合病院 光学医療診療部
竹内 学、河内 裕介、横山 純二、成澤 林太郎
新潟大学医歯学総合研究科 分子・診断病理学分野
味岡 洋一

18歳、女性。1か月前より下痢、粘血便を自覚するも放置していた。その後に前胸部痛が出現し、精査目的に当院を受診した。初診時所見では、37.8℃の発熱、1日6回の下痢、粘血便を認めた。また、Hb 7.2mg/dlと貧血を認め、CRP上昇、血沈亢進を認めた。大腸内視鏡検査では、直腸より挿入しえた横行結腸まで連続する易出血性の粗ぞうな粘膜を認め、全大腸炎型、Matts分類のgrade3相当の潰瘍性大腸炎(以下UC)と診断した。前胸部痛の精査目的に上部消化管内視鏡検査を施行したところ、中部食道よりびまん性にアフタ様のびらんが多発し、切歯列より32cmに単発の打ち抜き様の潰瘍を認めた。また、胃、十二指腸にも多発する細顆粒状のアフタを認めた。病理所見では食道潰瘍に高度の炎症細胞浸潤を認めたが、核内封入体は認めず、血清学的にもウイルス感染を示唆する所見は認めなかった。また、H.pyloriは陰性であった。UCの治療目的に入院とし、絶食、PSL 70mgの持続静注に加え、mesalazine 1500mgの粉末投与を開始した。治療開始翌日には、排便回数は減少し、粘血便は消失した。また、前胸部痛も著明に改善した。治療開始5日目の上部消化管内視鏡検査では食道のびらんは消失し、潰瘍も瘢痕化していた。治療開始2週後の大腸内視鏡検査では、横行結腸に軽度のびらんが残存するのみで、他結腸内に炎症の持続する所見は認めなかった。本症例では、ステロイド投与にて大腸病変のみならず食道潰瘍も速やかに軽快しており、UCとの関連が示唆される食道病変と考えられた。近年、上部消化管病変を合併したUCの症例報告が散見され、本症例でも認めた胃・十二指腸でのびまん性のびらん・潰瘍を特徴としている。しかし、その病因や頻度、治療法などは未だ不明な点が多い。更に、食道に病変を併発した症例は極めて稀であり、1998〜2009年まで医中誌で検索しえた限り、自験例を含めわずかに7例であった。UCの上部消化管病変を検討するうえで貴重な一例となると考え、若干の文献的考察を含め報告する。