日本消化器内視鏡学会甲信越支部

20.直腸癌に併発し、内視鏡的観察が可能であった虫垂癌の1例

諏訪赤十字病院 消化器科
酒井 康弘、進士 明宏、木村 岳史、武井 英樹、小松 健一、太田 裕志、武川 健二、山村 伸吉、小口 寿夫
諏訪赤十字病院 外科
五味 邦之、島田 宏、矢澤 和虎、梶川 昌二
諏訪赤十字病院 病理部
中村 智次

症例は79歳女性.主訴は排便時出血.2009年4月上旬頃から排便時出血が出現し,4月13日に当科紹介となった.下部消化管内視鏡検査を施行したところ直腸Rbに長径約40 mm大の3型病変が認められ,生検でgroup 5(tub1-tub2)と診断された.また,虫垂開口部から淡黄色の粘液塊の流出がみられた.虫垂粘膜が一部盲腸内に内反し,同部の粘膜異常を認めたが,虫垂内腔の観察は困難であった.生検ではgroup 3であったが,CT上では虫垂内腔には粘液と考えられる低吸収域を認め,長径約50 mm大に腫大しており虫垂癌を疑った.CT上では明らかな遠隔転移は認めなかった.5月13日に外科的に腹会陰式直腸切除術 および 虫垂切除術が施行された.病理所見は,直腸癌は45×30 mm,pap/tub1 >> tub2,pSM,ly0,v1,pPM0,pDM0,pRM0,Stage IIIa,cur A,虫垂癌はφ75 mm,villous adenoma >> pap/tub1,pSM,ly0,v1,pPM0,pDM0,pRM0,Stage I,cur Aであった.肉眼的には虫垂内に淡黄色の粘液塊が充満し,内腔は拡大していた.組織学的には絨毛腺腫が虫垂全長にわたって占拠し,開口部近くにはSMまで浸潤する腺癌を認めたが,内視鏡で確認できた虫垂開口部には腺癌は認めなかった.腫瘍細胞は細胞質に粘液を保有しており,その周囲に粘液の貯留を認め,粘液産生腺腫・腺癌と診断した.虫垂癌はほとんどが虫垂開口部付近の粘膜下腫瘍様もしくは結節性病変として観察されるため,術前に内視鏡的に診断できた症例は少ない.虫垂癌の内視鏡像について,文献的考察を含め報告する.