日本消化器内視鏡学会甲信越支部

19.粘膜下腫瘍様形態を呈した大きさ15mmのIs型進行大腸癌の1例

佐久総合病院 胃腸科
篠原 知明、堀田 欣一、小山 恒男、宮田  佳典、友利 彰寿、高橋 亜紀子、北村 陽子、福島 豊実、野村 祐介、岸埜 高明、桑山 泰治

 【はじめに】大腸癌で粘膜下腫瘍様の形態を呈することは稀である。今回、粘膜面に境界不明瞭な褪色陥凹を伴った、立ち上がりなだらかな半球状隆起の形態を呈し、粘膜下腫瘍との鑑別を要した大腸癌を経験したので報告する。【患者】70歳代、男性。【主訴】便潜血反応陽性。【大腸内視鏡所見】上行結腸に大きさ15mm大の緊満感を有する半球状隆起と、5mm大の腺腫様ポリープからなる二段隆起を認めた。下段の隆起は立ち上がりなだらかなSMT様で、境界不鮮明な褪色陥凹と発赤調領域が混在していた。NBI拡大観察では隆起中央に走行不整、口径不同な血管と不規則に分布する無血管野を認め、佐野分類CP Type III Bと診断した。Crystal Violet染色拡大観察では境界不鮮明な高度不整VI型pit pattern領域を認めた。Is型大腸癌、深達度cSM3-cMPと診断し、腹腔鏡下右半結腸切除術を施行した。【切除標本マクロ所見】実体顕微鏡観察にて上段の隆起部に鋸歯状構造を認めた。下段隆起の立ち上がりはI型pitを認め、非腫瘍性粘膜と診断した。また内視鏡で視認できなかった下段隆起の口側寄りに8mm大の表面無構造な陥凹局面を認めた。【病理組織所見】病変は粘膜下層を中心に発育した癌であった。粘膜筋板を保ちながら微小乳頭状に増殖した中分化管状腺癌が粘膜下層以深へ高度に浸潤したために、SMT様の形態を呈した。隆起頂部に9×6mmの範囲で粘膜内癌成分を認めたが、そのほとんどはSM浸潤部からの逆浸潤によるものと診断された。上段隆起の基部に幅1mmの範囲で鋸歯状形態の粘膜内癌成分を認め、同部を原発巣と診断した。粘膜下層深部は間質反応を伴った低分化腺癌の浸潤からなり、高度な簇出も認めた。最深部はMPであった。上段の隆起には散在性に鋸歯状腺管を認め、鋸歯状腺腫との鑑別が問題となったが、Ki-67陽性細胞の分布所見から過形成性ポリープと診断された。最終診断はAdenocarcinoma, tub2>por, MP, ly1, v0, N1, 16×15mm, A, Isであった。【考察】本例は隆起表面に正常粘膜を取り残して境界不明瞭な褪色陥凹を認めたが、病理では逆浸潤による粘膜内癌成分に対応した。