日本消化器内視鏡学会甲信越支部

14.Turcot症候群の一例

信州大学 医学部附属病院 消化器内科
伊藤 哲也、岩谷 勇吾、須藤 桃子、米田 傑、市川 真也、須藤 貴森、高橋 俊晴、武田 龍太郎、竹中 一弘、長屋 匡信、田中 榮司
信州大学 医学部附属病院 内視鏡診療部
赤松 泰次

 症例は18歳の男性.2008年8月より頭痛を自覚し,12月からうつ傾向が出現した.症状から精神疾患を疑われ2009年1月に近くの病院に入院した.入院後意識障害が出現し,CTにて小脳病変と水頭症を指摘され,脳神経外科での精査加療目的のため当院に転院した.1月30日のCTおよび造影MRIで小脳虫部に嚢胞変性を伴った45mmの分葉状腫瘤を認め,2月1日に両側後頭下開頭小脳腫瘍摘出術が施行された.病理組織診断はmedulloblastoma (gradeIV)であった.術後放射線治療(55.8Gy/31分割)後に貧血が悪化したため,消化管評価目的のため6月3日に上部消化管内視鏡検査(EGD),4日に下部消化管内視鏡検査(TCS)が施行された.EGDでは十二指腸3rd portionに管腔の約4/5周を占める結節混在型の隆起性病変を認め,2nd portionから下行部にかけて白色調の扁平隆起病変が散在しており,生検にていずれも十二指腸腺腫と診断された.胃体部には胃底腺ポリープを複数個認めた.TCSでは全結腸にポリープが100個程度認められ,全て5mm以下で大きな病変は認められなかった.18歳という若年者に大腸ポリポーシスを認め,更に髄芽腫が併存していることからTurcot症候群と診断した.本疾患は,近年遺伝子異常と臨床所見を基にした分類が提案されており,病因にミスマッチ修復遺伝子が関与した定型的Turcot症候群とAPC遺伝子異常が関与した家族性大腸腺腫症(FAP)関連タイプに大別される.自験例の家族歴として曾祖母に胃癌と大腸癌,祖父母に胃癌,祖母の異父兄弟に延髄腫瘍の既往があり,両親は近親婚ではなかった.また,胃底腺ポリープ,十二指腸腺腫および大腸ポリポーシスを認めることから,FAP関連タイプの特徴に類似しているが,家族歴からは特定できず,現在遺伝子検査を検討中である.多くの場合,予後は合併する脳腫瘍の進行度に規定される.現在髄芽腫に対し脳神経外科で化学療法中だが,5年生存率が60〜70%まで向上しており,今後も他臓器癌合併に注意する必要がある.医学中央雑誌での検索では,1983年から2009年までに16症例が報告されているのみで比較的まれな疾患であるため,若干の文献的考察を加えて報告する