日本消化器内視鏡学会甲信越支部

13.拡大・NBI観察が質的診断に有用であった大腸sm癌の1例

新潟臨港病院 内科
鈴木 裕、上原 一浩、風間 咲美
新潟大学 分子・診断病理
味岡 洋一

 症例は65歳、女性。高血圧症・高脂血症にて近医通院中、検診で便潜血陽性を指摘され2009年2月当科受診。同年3月に大腸内視鏡検査を施行したところ、上行結腸肝彎曲部近傍に、小顆粒状隆起を伴う軽度発赤調陥凹を表面に有する約8mm大の扁平隆起型病変を認めた。インジゴカルミン撒布・ピオクタニン染色による拡大観察では、顆粒状隆起より口側の陥凹面ではVI軽度不整型pitを、肛門側の陥凹面ではVI高度不整型pitを呈しており、NBI観察では口側の陥凹面では佐野分類CP type IIIAを、肛門側の陥凹面ではCP type IIIBを呈していた。内視鏡的にはSM 1000μm以深の浸潤が疑われる病変であったが、患者の強い希望もあり内視鏡的粘膜切除術を施行した。切除標本の病理診断はadenocarcinoma (tub1, tub2), pSM (>1500μm), ly (-), v (+), pHM0, pVM0, type 0-IIa+IIcであった。VI高度不整・CP type IIIBを呈した陥凹面肛門側ではsm深部に浸潤した癌が粘膜表面に露出しており、一方、VI軽度不整・CP type IIIAを呈した陥凹面口側では粘膜内癌の構造を保ちつつ、粘膜下層にも肛門側からの癌が浸潤していた。5月に追加腸切除を施行したが、手術標本には遺残・リンパ節転移とも認められなかった。早期大腸癌の質的診断には、pit patternの拡大観察やNBIによる血管像の観察が有用であることが報告されており、両者を組み合わせることで更なる診断能の向上が期待される。本例は両者の所見と組織構築の詳細な対応が可能であった病変であり、考察を加えて報告する。