日本消化器内視鏡学会甲信越支部

7.門脈ガス血症をきたした非閉塞性腸管虚血症(NOMI)の1救命例

山梨大学 医学部 第一外科
菅野 恵、河口 賀彦、柴 修吾、水上 佳樹、河野 浩二、藤井 秀樹

 症例は73歳男性。既往に、慢性糸球体腎炎による慢性腎不全があり、6年前より血液透析を行っていた。また、18歳時に胃潰瘍にて開腹手術の既往もある。2009年5月、近医で透析施行中、腹痛と血圧低下が認められたため、そのまま入院となった。腹痛は持続し、翌日の血液検査で肝酵素の上昇を認め、CTで肝内に広汎な門脈ガスを認めたため、当院に救急搬送された。来院時、収縮期血圧は80台、腹部は全体に緊満しており圧痛、反跳痛を腹部全体に認めた。また、腸雑音は聴取されなかった。血液検査では、肝胆道系酵素の上昇と白血球の上昇、血小板の低下を認めた。腹部CTでは、明らかな腹水は認められず、肝内の門脈や小腸間膜の血管内にガス像を認めたが、閉塞起点となるような腸管病変はなかった。腸管壊死を疑い、緊急手術を施行した。開腹所見としては、暗赤色の腹水を認め、トライツ靱帯より約90cm肛門側の空腸から回腸末端まで小腸は壊死していた。また、この部位より口側の空腸も一部まだらな色調変化を示していた。色調不良部の小腸を切除し、口側と肛門側の腸管をDouble stomaとした。切除小腸は240cm、残存小腸は80cmであった。病理学的には、腸管粘膜は壊死、脱落がみられ、粘膜下層にはうっ血、充血が高度であったが動静脈に血栓や閉塞像は認められず、非閉塞性腸管虚血症(NOMI)と診断した。術後は腎臓補助と高サイトカイン血症対策としてPMMA-CHDFを行い、第9病日からは通常の血液透析へ移行した。経口摂取も開始したが、短腸症候群であり、栄養管理には中心静脈栄養の併用が必要であった。第40病日に、近医へ転院となった。NOMIは術前診断が難しく予後不良と言われているが、今回我々は、門脈ガス血症をきたしたNOMIに対し緊急手術を施行し救命しえたので、若干の文献的考察を加え報告する。