日本消化器内視鏡学会甲信越支部

31.イレウス管が誘引と考えられた成人腸重積の1例

信州大学医学部付属病院 消化器外科
関野 康、石曾根聡、得丸重夫、佐近雅宏、小松大介、小出直彦、宮川眞一
信州大学医学部付属病院 消化器内科
赤松泰次

 イレウスの保存的治療および癒着剥離術後にイレウス管は広く用いられているが、まれにイレウス管が誘引となり腸重積症を発症することがある。今回、癒着剥離術後に発症したイレウス管留置に起因した成人の腸重積症例を経験したので報告する。症例は40歳女性。妊娠35週でイレウスを発症し、帝王切開およびイレウスを解除後に術中にイレウス管を挿入し、第4病日に抜去となった。術後軽度の通過障害が遷延したが重篤な合併症はなく退院となった。退院後2週間で腹部膨満及び嘔吐のため再入院となった。腹部CTでは上部空腸の拡張および腸管の重積所見を認め腸重積が疑われた。内視鏡的整復を試みたが改善せず,開腹下に整復を施行した。トライツ靭帯から25cmの上部空腸が先進部となり、10cmほど腸重積をきたしていた。先進部には腫瘍性病変を認めずイレウス管が誘引と考えられた。イレウス管が誘引となった腸重積の報告は過去10年で約40の報告がある。本症の原因としては諸説あるが、自験例は腸管が蛇腹状になったことで腸重積をきたし癒着したものと思われる。イレウス管留置の際には腸重積の発症の可能性のあることを念頭に経過観察する必要がある。