日本消化器内視鏡学会甲信越支部

21.十二指腸潰瘍穿孔術後の充填大網からの出血を合併した1例

済生会新潟第二病院 外科
桑原明史、田中 亮、田辺 匡、武者信行、坪野俊広、酒井靖夫
済生会新潟第二病院 消化器内科
関 慶一

 症例は81歳、女性。主訴は、黒色便。11日前に、十二指腸潰瘍穿孔・汎発性腹膜炎の診断で、大網充填術と腹腔洗浄ドレナージ術を施行。既往歴は心房細動と脳梗塞があり抗凝固療法中であったが、緊急手術時より中止。手術時の腹水培養からα-streptococcus、K. pneumoniae、Candida albicans、Candida spp.を検出した。手術当日からDRPMとH2 blocker、術後5病日からITCZを投与。術後3病日に経鼻胃管を自己抜去、術後5病日から水分、術後8病日から流動食を開始した。この間、排便はあったが異常を認めなかった。術後11病日に黒色便が出現した。腹部骨盤CTでは出血を疑う部位を同定できなかった。不穏状態のため、内視鏡検査は危険と判断しH2 blockerからPPIに変更し経過観察していたが、黒色便は持続し、輸血を要する貧血を呈したため術後16病日に上部内視鏡を施行。充填した大網が十二指腸内腔に突出しており、その先端からの出血を認め、クリップ4本で止血を行った。その後黒色便はとまり、術後20病日から経口摂取を再開した。胃十二指腸潰瘍穿孔に対する大網充填術は標準治療の1つであるが、術後の消化管出血の鑑別の1つに充填した大網からの出血も考慮する必要がある。