日本消化器内視鏡学会甲信越支部

82.虫垂癌の先端が上行結腸の憩室に浸潤して管腔内に露出し、特異な内視鏡像を呈した1例

佐久総合病院 胃腸科
堀田 欣一、高橋 亜紀子、北村 陽子、友利 彰寿、宮田 佳典、小山 恒男
佐久総合病院 外科
植松 大、中村 二郎、大井 悦弥
佐久総合病院 胃腸科、佐久総合病院 外科
石川 健

 【はじめに】虫垂癌は比較的稀な疾患であり、術前診断が困難な症例が多い。我々は、大腸内視鏡で上行結腸の腸間膜付着側の憩室内に発赤調隆起性病変を発見し、EUS及びCTにて虫垂癌の上行結腸浸潤と術前診断した1例を経験したので報告する。【症例】50歳代、女性。下血を主訴に当院胃腸科を受診した。大腸内視鏡検査でバウヒン弁寄りの上行結腸腸間膜付着側に憩室内に存在する径12mmの発赤調隆起性病変を認めた。通常観察で緊満感を有し、クリスタルバイオレット染色後の拡大観察では表層に細かい不整なpitが不規則に配列しており、VI(高度不整) pit patternであり、粘膜下層以深の癌の露出と診断した。生検診断は、Group5(tub1)であった。大腸内視鏡で虫垂開口部には異常所見は認めなかった。EUS(細径プローブ)ではlow echoic massが結腸壁外まで及んでおり、腫瘍本体は漿膜外の腹腔内に存在する事が示唆された。腹骨盤部CTでは体部から先端にかけて著明に腫大した虫垂が上行結腸内側背側に存在し、先端が上行結腸に浸潤しており、虫垂癌の上行結腸浸潤と診断した。術前診断はV,cType5,cSI(ascending colon),cN1,cH0,cP0,cM0,cStageIIIaであり、右半結腸切除+D3郭清術を施行した。虫垂は体部から先端部にかけて棍棒状に腫大し、内腔は腫瘍で満たされていたが、根部に腫瘍の進展はなかった。腫瘍組織は虫垂先端部より上行結腸内腔に浸潤し、粘膜面に腫瘍が露出していた。最終病理診断は、appendiceal carcinoma(V,pType5,tub1>tub2,por,pSI(ascending colon), ly1,v0,pN0(0/41),pPM0,pDM0,pRM0,sH0,sP0,sM0,pStageII,CurA)であった。術後2年11ヶ月経過した現在、無再発生存中である。【考察および結語】本症例は、上行結腸の憩室内に隆起性病変があり、拡大内視鏡により粘膜下層以深の浸潤を疑ったため、EUS及びCTなどの精査を行ない、結果的に虫垂癌の直接浸潤と術前診断可能であった。本症例は結腸浸潤部に憩室の存在が疑われる所見があり、憩室の腸壁が脆弱な部分で浸潤を来たしたため、粘膜下腫瘍様の形態を呈さず、限局的に腫瘍が結腸内腔に露出し、特異な内視鏡像を呈したと考えられる。