日本消化器内視鏡学会甲信越支部

80.No.3リンパ節転移を伴った横行結腸癌胃浸潤の1例

信州大学 医学部 附属病院 消化器外科
平賀 理佐子、小出 直彦、小松 大介、村中 太、荻原 裕明、石曽根 聡、宮川 眞一
同 消化器内科
白川 晴章、北原 桂、赤松 泰次
同 病理
上原 剛
穂高病院 内科
古屋 直行

 「症例」患者は70歳、男性。血便を主訴に近医を受診した。下部消化管内視鏡検査で横行結腸に2型腫瘍を認め、腹部CT検査では腫瘍の胃壁浸潤が疑われた。上部消化管超音波内視鏡検査(EUS)では胃角部大弯後壁に第4層から胃壁外に広がる境界明瞭、辺縁平滑な類円形状の充実性低エコー腫瘤を認め、粘膜下腫瘍が疑われた。上部消化管造影検査では体下部大弯に可動性の乏しい壁外圧迫像を認めたが、その他の部位には粘膜下腫瘍の存在は認めなかった。PET検査では大腸癌に合致する腫瘤状集積の他は転移を疑わせる集積を認めなかった。横行結腸癌胃浸潤の診断で手術を施行した。腫瘍は横行結腸に存在し胃角部大弯側に直接浸潤していた。横行結腸切除、胃部分切除術を行ったが、術中迅速診断で胃切除断端陰性であったが胃壁近傍の筋層・漿膜下の脈管内に多数の腫瘍細胞を認めたことより幽門側胃切除術を追加した。術後の病理組織学検査では低分化腺癌で、No.3(胃角部小弯)リンパ節に転移を認めly3、v2であった。PSI、pN0、pM1:Stage 4と診断された。「考察」(1)大腸癌胃壁浸潤部位はEUSにて胃壁第4層に連続する境界明瞭な腫瘤として描出されたことから、術前には胃間葉系腫瘍(粘膜下腫瘍)の存在も考えられた。内視鏡検査で胃粘膜下腫瘍を認めた場合には大腸癌からの浸潤の可能性も念頭におきEUSやその他のmodalityによる検査結果とを総合的に判断する必要があると考えられた。(2)大腸癌の他臓器浸潤では浸潤臓器の所属リンパ節に転移を認めることは少ないとされる。本例では大腸の所属リンパ節には転移を認めず、胃の所属リンパ節に転移を有した。本例の様な脈管浸潤の強い大腸低分化腺癌は臨床的悪性度が高い事を念頭に治療にあたる事が重要であると考えられた。