日本消化器内視鏡学会甲信越支部

79.局所再発・多発肝転移を来したS状結腸sm微小浸潤癌の1例

特定・特別医療法人慈泉会 相澤病院
白津 和夫、海野 洋、五十嵐 亨
医療法人仁雄会 穂高病院
古屋 直行

  症例は64歳女性,特記すべき既往症なし.平成16年2月S状結腸の15mmのIp病変に対し内視鏡的粘膜切除術が施行された.病理組織所見は高分化型腺癌,浸潤度sm1,ly0,v1,断端陰性であり,追加切除は行わず経過観察の方針となった.同年4月下部消化管内視鏡検査ではEMR後瘢痕を認めるのみであった.以降も同院でのフォローが予定されていたが本人の判断で通院は行われなかった.同年他院を受診し内視鏡検査を受けたが問題なく,さらに平成18年別の医院にて下部消化管内視鏡検査・腹部CTを施行されたが異常は指摘されなかった. 平成20年5月ごろより左下腹部痛が出現し,6月から全身倦怠感が出現した.半年で5kgほどの体重減少も認めた.一過性の動悸・嘔気にて6月に当院救急外来受診.腹部CTにてS状結腸腫瘤・多発肝腫瘤を認めたため精査加療目的で当科入院となった.腹部CT上S状結腸の腫瘤は不整形であり径3cm程度,肝には造影にて辺縁濃染される大小の結節が多発しており,S状結腸癌の多発肝転移が疑われた.下部消化管内視鏡検査ではS状結腸のEMR後瘢痕と思われる部位にSMT様隆起を認めた.同部よりボーリング生検を施行するも悪性所見は認めなかった.CEA76.64ng/mlと高値であったことも併せ,S状結腸癌の局所再発・多発肝転移の可能性が高いと判断し化学療法を開始した. 大腸sm癌症例では手術時約10%にリンパ節転移が認められることが知られており,pSM垂直断端陽性,pSM浸潤度1,000μm以上,脈管侵襲陽性,低分化腺癌・未分化癌の条件を一つでも認めれば外科的追加切除が考慮される.今回我々は静脈侵襲陽性ではあったが追加切除は行わず経過観察の方針となったS状結腸sm微小浸潤癌において,その後のサーベイランスが不十分となり局所再発・肝転移を来した症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.