症例は67歳男性。1994年に直腸Rbにカルチノイド腫瘍を認め、当院外科にて経肛門的切除術(TEM)施行。切除標本の検索では病変は10×12mm、粘膜下層に留まり、完全切除であった。数年間の経過観察で再発を認めず、以後定期通院はしていなかった。2008年3月検診の腹部超音波検査で肝S4に23×17mm大のモザイクエコーを認めたため5月当科受診。腹部造影CTで同部位は動脈相にて不均一に染まり、門脈相から遅延相にて染まり抜けを認めた。また肝右葉には5mm大の動脈相での染まりを複数認め、骨盤内には石灰化を伴う腫大リンパ節を2個認めた。EOB-MRIの肝細胞相にて両葉に多発する低信号域を認めた。HBs Ag、HCV Ab、抗核抗体、抗ミトコンドリア抗体は陰性、AFP、PIVKA-IIも正常範囲内であった。上部及び下部消化管内視鏡検査では悪性所見およびカルチノイド腫瘍の再発を認めなかった。肝S4 の腫瘍に対してエコーガイド下肝腫瘍生検を実施、病理標本にて小型の上皮様細胞を孤立性・小集簇性に認め、CD56(NCAM)が膜様に陽性を示した。1994年に切除された標本でも同様の所見を認め、直腸カルチノイド腫瘍の肝転移と診断した。今後外科手術による加療を予定している。直腸カルチノイド腫瘍の異時性肝転移に関しては本邦でも報告例が散見されるが、原発巣切除14年後に転移を認めた症例は稀であるため、文献的考察を加えて報告する。