日本消化器内視鏡学会甲信越支部

76.赤痢アメーバ性大腸炎の合併により診断が困難であったS状結腸癌の一例

山梨大学 医学部 第一内科
河合 幸史、山口 達也、大塚 博之、吉岡 良造、津久井 雄也、進藤 浩子、末木 良太、門倉 信、三浦 美香、松井 啓、高野 伸一、北村 敬利、植竹 智義、大高 雅彦、佐藤 公、榎本 信幸
山梨大学 医学部 第一外科
飯野 弥

 【症例】61歳男性。2008年1月頃から貧血症状と、時おり血便や下腹部痛を自覚していた。3月に下腹部痛を主訴に近医を受診し内服薬の処方により一時的に症状改善。このとき貧血を認めたが再診せず放置されていた。5月26日強い下腹部痛とイチゴゼリー状の血便を主訴に同医を再診し、5月30日に当院紹介入院となった。入院時には発熱、下腹部の腹膜刺激症状、血液検査で炎症反応高値、小球性貧血を認めた。CTではS状結腸の壁肥厚とその周囲の膿瘍を認めた。腫瘍もしくは大腸炎による腸管穿孔とそれに伴う腹腔内膿瘍と診断し絶食・抗生剤投与で保存的に治療を行い腹痛、炎症は改善した。注腸検査で同部位に3cmの狭窄を認めたが造影剤は腸管外へ漏出しなかった。下部消化管内視鏡検査を行ったところS状結腸には汚い膿汁を伴う全周性の潰瘍性病変を認め、狭窄のため内視鏡は通過しなかった。直腸から狭窄部まではタコイボびらんがびまん性に多発していた。生検の結果、赤痢アメーバ原虫を認め赤痢アメーバ性腸炎と診断、腫瘍性の所見は認めなかった。メトロニダゾールの内服後、多発するびらんは消失し潰瘍も縮小したが内視鏡は狭窄部を通過せず、内視鏡下に狭窄部のバルーン拡張を5回行い8月16日に退院となった。拡張後は内視鏡の通過は可能で狭窄部より口側は盲腸まで異常を認めなかった。8月25日に腹痛あり当院を受診し大腸イレウスの診断で入院。入院日に下部消化管内視鏡検査を行ったところ、前回バルーン拡張を行った部位は潰瘍が残存し再狭窄のため内視鏡は通過しなかった。再びバルーン拡張を行い、イレウスは解除されたが、狭窄部位からの生検で分化型の腺癌と診断され開腹手術を行う予定である。【まとめ】赤痢アメーバ性大腸炎の合併により診断が困難であったS状結腸癌を経験した。S状結腸の穿孔は、もともと癌があった部位に赤痢アメーバが感染したことが原因と考えられた。赤痢アメーバ性大腸炎と進行大腸癌の合併は非常に稀であるが、教訓となる経過を辿ったため、文献的考察を含めて報告する。