日本消化器内視鏡学会甲信越支部

75.盲腸に限局したアメーバ性大腸炎の一例

長野中央病院 消化器内科
冨田 明彦、小島 英吾、松村 真生子、木下 幾晴

 今回われわれは,盲腸に限局したアメーバ性大腸炎の一例を経験したため報告する.症例は45歳男性.既往歴に特記事項なく,海外渡航歴もない.平成19年7月の健診で便潜血陽性を指摘されて9月に当院を受診された.自覚症状はなかったが,精査のため下部内視鏡検査を施行したところ,直腸から回盲部までは異常はみられなかったが,虫垂開口部の周囲に白苔をともなう多発性のびらんを認めた.病変部から生検を施行したところ,粘膜内に炎症細胞が浸潤しており,滲出物の中に赤血球を貪食した栄養型アメーバの虫体を多数認め,アメーバ性大腸炎と診断した.感染源を特定するために詳細に問診したところ,国内の風俗店で女性と性交渉をもったことが判明した.治療はメトロニダゾール1g/分3を10日間内服とした.治療終了後より3ヶ月後に下部内視鏡検査を施行したところ,以前と同様に虫垂開口部周囲に病変があり,生検でも多数の栄養型アメーバが認められ,改善はみられなかった.再治療としてメトロニダゾールを増量し,2g/分3を20日間投与とした.さらに3ヶ月後に下部内視鏡検査を施行したところ,虫垂開口部の病変はみられず,生検でもアメーバは確認されず治癒したと判断した.アメーバ性大腸炎は直腸やS状結腸,回盲部に好発するが,盲腸に限局するアメーバ性大腸炎は比較的稀とされている.症例報告をみると,本例のうように便潜血陽性で発見され,無症候性であることが多い.アメーバ性大腸炎の治療にはニトロイミダゾール系抗原虫薬のメトロニダゾールやチニダゾールが使用されるが,本症例のように通常量の内服では治療に難渋する場合もある.本邦で報告された盲腸に限局したアメーバ性大腸炎についての症例をまとめ、治療についても文献的考察を踏まえて報告する.