症例は51歳の女性。1週間ほど続く下腹部痛を主訴に前医受診。下腹部の圧痛と中等度の炎症反応を認め、症状の増悪傾向もみられたため、同院入院。保存的治療にて症状は軽減したが、経過中に粘液便が出現したため、大腸内視鏡検査(CF)を施行。直腸およびS状結腸に狭窄を認め、精査目的に当科紹介となった。
当科CFにて直腸およびS状結腸の粘膜に、限局性の表面平滑な顆粒・結節状の変化を認め、内腔は狭小化。注腸では、同部は鋸歯状の壁硬化像を呈していた。腹部・骨盤CTでは、子宮周囲に強い炎症性変化がみられ、腸管との癒着を疑う所見を認めた。以上より、子宮、もしくは骨盤内の炎症が腸管に波及し、狭小化を呈したものと考えた。38歳時より子宮内避妊具が留置されていたことから同部の感染を疑い、婦人科にて抜去。培養にて放線菌が検出され、骨盤放線菌症と診断した。
症状、炎症所見が軽微で、感染源も除去されたことから、保存的に治療を行う方針とし、半年間抗生剤(DBECPCG)を投与。その後約1年半経過観察しているが再発所見なく、CF上認めた顆粒状粘膜も消失し狭小化も軽快した。
放線菌症はActinomyces属による慢性進行性炎症性疾患であり、多発膿瘍、肉芽および線維性組織を形成しながら周囲へ浸潤性に進展することを特徴とする稀な感染症である。腹部・骨盤放線菌症では近年、感染の原因として魚骨や子宮内避妊具との関連性が注目されている。炎症波及による腸管狭窄の合併もみられるが、診断がつかず、腫瘍を疑われるなどして手術されたものが多い。診断確定し手術回避できた例は少なく、貴重な症例と考え報告する。