日本消化器内視鏡学会甲信越支部

72.メサラジンの投与が著効した単純性潰瘍の1例

長野県立木曽病院 内科
木村 岳史、高橋 俊晴、小松 健一、飯嶌 章博

 【症例】71歳,男性.【主訴】腹痛.【現病歴】2000年から虚血性心疾患・糖尿病にて当科外来通院加療中.2007年10月5日から食後の心窩部痛が出現.血液検査・腹部超音波検査・上部消化管内視鏡検査では,胃潰瘍・十二指腸潰瘍瘢痕を認めるのみであった.その後心窩部→左側腹部→右側腹部へ腹痛が移動し改善しないため10月26日当科再診,精査・加療目的に入院となった.【理学的所見】眼・口腔・陰部・皮膚所見なし,右下腹部に圧痛あり・反跳痛なし・板状硬なし.【入院後経過】腹部CTにて回盲部に腸管の壁肥厚を認め10月30日に下部内視鏡検査を施行した.回盲弁は破壊され,回盲部に巨大な下掘れ傾向のある境界明瞭な潰瘍性病変を認めた.同部位の病理学的検査では肉芽腫や腫瘍性変化は指摘できず非特異的な炎症所見のみであった.腸液の細菌培養検査では常在菌のみ検出,抗酸菌検査は陰性であった.小腸二重造影では小腸に病変は指摘できなかった.ベーチェット病を示唆する所見を認めないことから単純性潰瘍と診断,本人・家人へICを行い11月16日よりメサラジン2250mg/dayの内服を開始した. 約2週間で腹痛はほぼ消失したため退院,外来観察となった.経過観察目的に施行した下部内視鏡検査にて回盲部単純性潰瘍は完全治癒しており,メサラジンの投与が著効したと考えられた.現在メサラジン同量維持使用にて再発徴候なく外来観察中である.【考察】単純性潰瘍は回盲部に好発する原因不明の難治性炎症性腸疾患である.薬物療法(ステロイド,サラゾスルファピリジン,メサラジン)や栄養療法,最近ではエタノール局所散布,白血球除去療法,抗TNFα抗体等の有用性が報告されているが,内科的加療に抵抗性を示し手術に至る例,術後に再発する症例も少なくないとされ治療法が確立していないのが現状である.今回我々はメサラジン投与が著効した1例を経験したため報告する.