日本消化器内視鏡学会甲信越支部

69.消化管原発濾胞性リンパ腫の病期診断中に偶然発見された回腸カルチノイド腫瘍の1例

信州大学 医学部付属病院 消化器内科
須藤 桃子、北原 桂、伊藤 哲也、米田 傑、丸山 雅史、市川 真也、須藤 貴森、武田 龍太郎、竹中 一弘、長屋 匡信、白川 晴章、田中 榮司
信州大学 医学部附属病院 内視鏡診療部
赤松 泰次
信州大学 医学部附属病院 消化器外科
村中 太、関野 康、荻原 裕明、石曽根 聡
信州大学 医学部附属病院 臨床検査部
福島 万奈

 症例は58歳の女性。自覚症状はなし。平成20年2月の人間ドックで施行された上部消化管内視鏡検査にて十二指腸下行部に白色顆粒状粘膜を認め、生検組織所見より濾胞性リンパ腫(grade 1)と診断された。同年4月に当科を紹介され、病期診断のために各種画像診断を行った。カプセル内視鏡検査では上部小腸には異常所見を認めなかったが、経肛門的にダブルバルーン小腸内視鏡検査を施行したところ、回盲弁より約45cm口側の回腸に頂部に陥凹を伴った約10mm大の粘膜下腫瘍を認めた。陥凹部より生検を施行したところ、組織所見よりカルチノイド腫瘍と診断された。また、終末回腸にも白色顆粒状の粘膜を認め、生検にて濾胞性リンパ腫(grade 2)と診断された。腹部CT検査では腸間膜に最大径11mmのリンパ節が散在性に認められたが、FDG-PETでは明らかな異常集積はみられなかった。濾胞性リンパ腫の病期はLugano国際分類でIないしII1と診断した。濾胞性リンパ腫に対しては本人の希望により経過観察としたが、回腸カルチノイド腫瘍に対しては外科的切除術を行った。腹腔鏡下で手術を開始したが、術中所見にてリンパ節転移と考えられる白色結節を認め、迅速診断にてカルチノイド腫瘍のリンパ節転移と確認し、開腹術に移行した。可及的に切除可能な範囲でリンパ節を含めて小腸部分切除術を行った。病変の大きさは11×9mmで、病理組織所見では、腫瘍細胞は粘膜固有層から漿膜下にかけて胞巣状の増殖を認め、脈管侵襲とリンパ節転移がみられた。内分泌細胞癌との区別が問題となったが、Ki67陽性細胞は1.1%であったことからカルチノイド腫瘍と診断された。本例は無症状期に小腸内視鏡検査で偶然に発見した比較的小さな回腸カルチノイド腫瘍であったが、すでに漿膜下浸潤とリンパ節転移がみられ、悪性度の高いカルチノイド腫瘍と考えられた。