日本消化器内視鏡学会甲信越支部

67.下血を契機に発見されたVon Recklinghausen病に合併した多発小腸GISTの1例

松本協立病院 消化器内科
田代 興一、芹沢 昌史
松本協立病院 外科
富田 礼花、佐野 達夫、山本 浩、具志堅 進
健和会病院 病理
林 誠一

 症例は59歳女性.平成20年5月に黒色便が5日ほど持続し,次第に労作時息切れが増悪したため近医を受診したところ,貧血を認め当科紹介入院となった.8歳の頃von Recklinghausen病といわれ,平成10年に他院皮膚科で精査を受けているが,平成5年の十二指腸潰瘍以外には他疾患の既往はなかった.von Recklinghausen病の家族歴はなかった.全身の皮膚にcafé au lait spotsと多発結節を認めた.Hb は5.2 g/dlだった.上部及び下部消化管内視鏡検査を施行したが,出血性病変を認めなかった.腹部造影CT施行したところ,小腸に10mmと15mmの早期造影効果を示す結節を2個認めた.このため小腸腫瘍による出血が疑われ,開腹手術を施行したところ,トライツ靭帯より90 cmの小腸漿膜側に約10mmの小結節を認め,さらに同部位より肛門側へ30cmの小腸粘膜側に約15mmの結節を,またその漿膜側には最大約10mmまでの小結節を3個認めた.結節を含む空腸切除術を行った.粘膜側の結節は粘膜下腫瘍様で粘膜面には潰瘍を伴っていた.病理所見は,いずれの腫瘍も索条配列をした紡錘形細胞の増生からなり,核分裂像は少数であった.免疫染色ではc-kit陽性だが,desmin・α-smooth muscle actin・S-100蛋白は陰性で,MIB-1陽性細胞は極少数であった.以上よりGIST,低リスクと診断された.Von Recklignhausen病に合併したGISTは,非合併例に比し多発例が多く,本疾患のように出血原因と考えられた腫瘍の他にも病変が存在し,注意を要すると考えられた.von Recklinghausen病に合併したGIST報告例は稀であり,文献的考察を加え報告する.