日本消化器内視鏡学会甲信越支部

64.小腸穿孔をきたしたT細胞性悪性リンパ腫の一例

飯田市立病院 外科
志村 愛、池田 義明、前田 知香、阿藤 一志、秋田 倫幸、平栗 学、堀米 直人、金子 源吾
飯田市立病院 内科
白籏 久美子、金子 靖典、岡庭 信司、中村 喜行
飯田市立病院 臨床病理科
池山 環、伊藤 信夫

 <はじめに>小腸悪性リンパ腫の多くはB細胞性で、T細胞性は比較的まれである。今回我々は小腸穿孔をきたしたT細胞性悪性リンパ腫の一例を経験した。

<症例>71歳、男性。2008年6月中旬より腹痛、下痢、腹部膨満を認めていた。6月下旬、朝食後に強い腹痛を認めたため、近医を受診した。腹部レントゲン写真にてfree airを認め、消化管穿孔が疑われ当院に紹介となった。来院時腹部は膨満しており、左下腹部に強い圧痛、筋性防御、反跳痛を認めた。血液検査ではCRP:2.9mg/dl、WBC:24300/μlを認めた。腹部CTではfree air、小腸に約3mmの壁欠損部、骨盤腔内に少量の腹水貯留を認め、また正中から左下腹部にかけた小腸に高度な壁肥厚と腸間膜内の多数のリンパ節腫大を認めた。小腸穿孔と診断し、緊急手術を施行した。術中所見では開腹時混濁した腹水を認め、小腸壁は全体的に肥厚しており、また腫大した多数の腸間膜内リンパ節を認めた。トライツ靱帯から約3m70cmの部位で小腸が径4cmほど暗赤色に変色しており、その中央に約5mmの穿孔部を認めた。穿孔は1ヵ所であったが、穿孔部の50cm肛門側の小腸に硬結を認めたため、穿孔部と硬結を含むように小腸を部分切除し、腹腔内ドレナージを行なった。病理組織診断では切除した小腸全長にわたり著しいリンパ球浸潤を認め、特に穿孔部と硬結を触れた部位には全層性に高度のリンパ球浸潤を認め、壁構造が不明瞭となっており、T細胞性悪性リンパ腫と診断された。術後経過は良好で、現在内科にてCHOP療法を行っている。

<結語>T細胞性悪性リンパ腫は穿孔をきたしやすく、予後不良とされている。若干の文献的考察を加えて報告する。